18・好きな男が出来た

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納得出来ない思いを抱えたままの翌朝、いつもより早く家を出た。 ひっそりとした朝の学校を歩き、1人で図書室へ向かった。 昨夜藤嘉へメッセージを送ったのは、深夜と呼べる時間だった。 『明日の朝、図書室に寄って欲しい』と。 藤嘉からは朝方に『分かった』とだけ返信があった。 昨日かなり微妙な雰囲気で別れてしまったけれど、無視されなくて良かったと思う。 昨夜色々と考えたけれど、やっぱりきちんと話がしたかった。 自分の思いも伝えたかったし、藤嘉の思いも知りたかった。 静かな図書室で、時計の音と自分の心音だけが響く。 藤嘉は来てくれるだろうか?藤嘉が来たら何をどうやって話そうー… 不意に、外側からドアが開けられた。 勢い良く顔を上げる。 当たり前だけれど、そこには藤嘉が立っていた。 俺を見て柔らかく微笑む。 「おはよう、椋」 首を傾げたその拍子に今日もぴょこんと跳ねている長めの黒髪が揺れた。  「おはよ」 藤嘉はドアを閉め、こちらへ歩み寄る。 藤嘉はいつもの場所、俺の向かいの席に腰を下ろした。 藤嘉の動きに合わせて、果実の様な甘くほんの少しほろ苦い香りが立つ。 「藤嘉、あの「昨日は」」 藤嘉が語尾を遮った。 顔を上げると、藤嘉は机に頬杖をついてこちらを見ている。 「ごめんね、椋」 「ぇ?」 「なんか微妙な感じになっちゃって」 奥二重の瞳は瞬きもせずにこちらを見る。 そこからは謝罪に込められた意味を読み取れない。 俺は言った。 「いや、なんか、俺も、ごめん」 ふふっと口元は微笑むのに、藤嘉の瞳の奥は動かない。 藤嘉が言った。 「じゃあ、仲直りだな」 仲直り。喧嘩だったわけでもないのに。 このままじゃ藤嘉のペースでまた有耶無耶になるんじゃないか? それはごめんだ。 「仲直り…の前に、言いたいことがあるんだけど」  俺は腹に力を込めて、そう口火を切った。
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