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藤嘉は相変わらず瞬きもせずに、こちらを真っ直ぐに見ている。
心臓がうるさい。
早く話したいのに、上手く声が出そうにない。
大きく深呼吸をした時、静かに言ったのは藤嘉だった。
「椋。それは絶対、聞かなきゃダメか?」
藤嘉の言葉に、自分の目が丸くなるのを感じた。
そんな狡い言い方をされるとは思わなかったから。
それは話すなってこと?
そんなに俺の話は聞きたくないのか?
昨日の件を『仲直り』で終わりにして、また何もなかったように過ごしていけってこと?
そんなの…
それが出来るなら、俺は昨日のまま引き下がっている。
藤嘉と何もなかったように過ごしたいと俺が思っているならば、そもそも、花火大会の夜に駆け付けもしなかったし、藤嘉の身体を抱き締めたりもしなかった。
藤嘉は嫌でも、もう引き下がれないんだよ、俺は。
「出来れば聞きたくないってことか?」
俺の言葉に、藤嘉は黙ったままだ。
「結構狡い奴だよな、藤嘉って」
俺は続ける。
「指切り、したじゃん」
そう言ったら今度は藤嘉が目を丸くした。
「『椋に好きな男が出来たら、俺も何でも答えてやる』って先に言って、指切りしたのは藤嘉の方だろ」
そうやって小指を繋いだことを、忘れたなんて言わせない。
藤嘉が頬杖から顔を上げる。
「それはっ、「教えてやるよ、藤嘉」」
藤嘉の語尾を遮って、俺は藤嘉が何か言うよりも先に早口で続けた。
「好きな男が出来た」
「っ、」
藤嘉が静かに息を飲んだ。
あんなに喧しかった心臓の音は、気にならなくなっていた。
静かな図書室に、静かに自分の声が広がるのを聞いた。
「藤嘉のことが好きだ」
俺の言葉が藤嘉へと届く。
それを理解した瞬間、藤嘉は瞬きをしないままの目を幾分細めて、軽く唇を噛んだ。
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