18・好きな男が出来た

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藤嘉は相変わらず瞬きもせずに、こちらを真っ直ぐに見ている。 心臓がうるさい。 早く話したいのに、上手く声が出そうにない。  大きく深呼吸をした時、静かに言ったのは藤嘉だった。 「椋。それは絶対、聞かなきゃダメか?」 藤嘉の言葉に、自分の目が丸くなるのを感じた。 そんな狡い言い方をされるとは思わなかったから。 それは話すなってこと? そんなに俺の話は聞きたくないのか? 昨日の件を『仲直り』で終わりにして、また何もなかったように過ごしていけってこと? そんなの… それが出来るなら、俺は昨日のまま引き下がっている。 藤嘉と何もなかったように過ごしたいと俺が思っているならば、そもそも、花火大会の夜に駆け付けもしなかったし、藤嘉の身体を抱き締めたりもしなかった。 藤嘉は嫌でも、もう引き下がれないんだよ、俺は。 「出来れば聞きたくないってことか?」 俺の言葉に、藤嘉は黙ったままだ。 「結構狡い奴だよな、藤嘉って」 俺は続ける。 「指切り、したじゃん」 そう言ったら今度は藤嘉が目を丸くした。 「『椋に好きな男が出来たら、俺も何でも答えてやる』って先に言って、指切りしたのは藤嘉の方だろ」 そうやって小指を繋いだことを、忘れたなんて言わせない。 藤嘉が頬杖から顔を上げる。 「それはっ、「教えてやるよ、藤嘉」」 藤嘉の語尾を遮って、俺は藤嘉が何か言うよりも先に早口で続けた。 「好きな男が出来た」 「っ、」 藤嘉が静かに息を飲んだ。 あんなに喧しかった心臓の音は、気にならなくなっていた。 静かな図書室に、静かに自分の声が広がるのを聞いた。 「藤嘉のことが好きだ」 俺の言葉が藤嘉へと届く。 それを理解した瞬間、藤嘉は瞬きをしないままの目を幾分細めて、軽く唇を噛んだ。
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