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藤嘉に、言った。
藤嘉に、言えた。
好きだ、と。
そう思った瞬間、背中がゾワリと粟立った。
また心臓の音が俺の身体の中から喧しく騒ぐ。
けれど、心は軽かった。
俺の言葉は藤嘉にしっかりと届いたはずだ。
薄い唇を噛みしめた藤嘉は、瞳を細めて眉をしかめる。
その表情の裏にどんな想いがあるのか、俺には読み取れない。
けれど、昨日藤嘉が『俺も椋のその話の続きは聞けない』と言ったことを思えば、俺が望む想いを藤嘉は抱いてはいないだろうことは覚悟する。
それは、分かってる。
分かっていた、藤嘉には音弥がいるのだから。
小さく息をついてから、俺は言った。
「藤嘉」
名前を呼べば、藤嘉の黒目が動いてこちらを見る。
視線が交わる瞬間にようやくゆっくりと瞬きをした藤嘉に、俺は続けた。
「なぁ、指切りしたよな?」
藤嘉は軽く視線を下げて、答える。
「…うん」
「俺に好きな男が出来たら、何でも答えてくれる約束だよな?」
「……」
藤嘉が黙る。
また改めてきゅっと唇を噛む藤嘉に俺は続ける。
「それとも、針千本飲むか?」
藤嘉が小さく呟いた。
「針千本は、キツいなぁー…」
藤嘉は項垂れる様に俯き、ふふっと自嘲気味に笑う。
そして俯いたままで続けた。
「椋」
優しい呼び掛けに、喧しく鳴る心臓がぎゅっと締まった。
藤嘉の言葉が続く。
「先に聞いてもいいか?」
「その後に藤嘉が何でも答えてくれるならな」
藤嘉のペースに飲まれないようそう言って釘を刺せば、藤嘉はまたふふっ、と笑った。
そして、優しい声で続けた。
「何で、俺なの?」
藤嘉のそんな問いに、すぐに答えたのは反射的だった。
あれこれ考えて挙げ句に答えを失ってしまう前に、口は動いていた。
「俺が藤嘉を好きなことに理由なんかいるか?」
藤嘉がパッと顔を上げる。
「そんなこと聞く藤嘉には、音弥を好きなことに理由があるのか?」
俺がそう言葉を続けたら、藤嘉は酷く困ったように眉を下げた。
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