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カーテンを閉め切った薄暗い室内で、画面の中央には俺だけが映っている。それはいつもの光景だが、これを見るのは今日が最後になるのだ。
普段は適当なBGMも流しているのだが、今日は映像と俺の音声だけが流れている状態にしてあった。
「最後になるから、とっておきの話をしたいと思ってるんだ。俺が体験してきた、マジで死ぬほどヤバい話。ただ『引退します、今までありがとう』って過去を振り返るだけの動画じゃつまんないだろ?」
口元を隠すための黒いマスクの位置を直しながら、俺の声音は努めて明るく言葉を紡ぐようにしている。
怖い話は無理だと去ってしまうリスナーもいたが、『死ぬほどヤバい話』だなんて言われたら、好奇心が勝る人間も多いのだろう。
中には、どうせ大したことがないだろうから、話し終わったら俺を叩こうと思っている輩もいるに違いない。
炎上の気配を察知して、最速でネット記事を上げようと準備している人間もいるはずだ。
自らハードルを上げている以上、そういったリスナーが留まるであろうことも理解していた。
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