国守りの魔法使いと黒羊のハインリヒ

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「なんだこれはっ」 「ハインリヒ!」  柔らかな身体に埋め込まれるように刺さったナイフが、次第に輝きはじめます。 「なんだ、なんだ、どういうことだ」  グレゴールが焦ったように叫びました。  それもそのはず。はじめに呪いを受けたときとおなじ状況となったおかげで、ナイフを通して、グレゴールに渡った魔力がハインリヒの身体に戻ってきているのです。  ぬいぐるみの身体が、より大きくふくれあがります。  対してグレゴールのほうはといえば、魔力が吸われていくにしたがい、身体が縮み、ミイラのように干からびていきました。 「あ、あ、あ、あ……」 「返してもらうぞ、おれのちから」  やがてグレゴールは床に倒れ、身体が砂のようになって消えてしまいました。  これでやっと元の姿に戻ることができそうです。  しかし、ここにはエリーゼがいます。  ぬいぐるみのハインリヒが、ハインツベルティッヒであると知られてしまいましたが、エリーゼがずっと信じていた善き魔法使いハインツベルティッヒは先代魔法使い。今のハインツベルティッヒは、悪魔のような黒い髪をしていることを知られたくはありません。  誰に何を言われてもいいけれど、エリーゼにだけは嫌われたくないと思ったハインリヒは、エリーゼのことが好きなのだと気づきました。
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