国守りの魔法使いと黒羊のハインリヒ

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 ウムリス国には、昔から国を守っている魔法使いがいます。  名はハインツベルティッヒ。  国ができたときからずっと生きているとされていますが、ちからの強い魔法使いに引き()がれているだけで、まったく別のひとたちなのです。  今の国守(くにまも)りの魔法使いは、異国からやってきた若者です。黒い髪に黒い瞳をしているために怖がられて、けれど便利屋のように扱われていたため、故郷から逃げてきたのです。  彼は異形の自分がだいきらい。いっそ本物の魔物になりたいと思っていたところで、ハインツベルティッヒに出会い弟子(でし)になりました。  祖父のような年齢の魔法使いといるうちに、彼のような『善い魔法使い』になりたいと思うようになっていきました。老いたハインツベルティッヒが亡くなったときには涙を流し、今は彼の後を継いで、国を守る魔法使いとして過ごしています。  しかし黒い姿をした自分がきらいな若者はひっそりと町はずれで暮らしており、国民のだれもハインツベルティッヒの姿を知りません。  国一番の魔法使いがいて、国のために魔法を使っていることは知られていますが、会ったことがあるひとはほんのわずか。そのため、まっしろな髪をした老人だとか、しわくちゃのおばあさんだとか、いやいや若い娘だとか、いろいろと噂をされています。  若者は噂を利用し『姿(すがた)(へん)じの魔法』を使って、じつにさまざまな姿で客に顔を見せるのでした。
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