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足を切断された狼が、バランスを崩して倒れる。さらに飛び掛かって来ようとする獣の頭を斬りつける。横に流した剣をまた上に振り上げ、狼の顔を斬る。
「ぐ、ぎゃあ・・・・・・!」
どろり、と血が流れ出し、やがて狼は動かなくなった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
乱れた息を直し、私は思わず悲鳴を上げる。
私の声が屋敷中に響き渡り、余韻を残して消えた頃、私は落ち着きを取り戻していた。
「っあ・・・・・・?!」
我に返り、剣を投げ捨てようとしたその時。
剣がすっ、と私の体の中に入った。比喩などではなく、剣がひとりでに動いて私の中へ吸い込まれていったのだ。
剣は、違和感なく忽然と消えてしまった。
痛みもないし、違和感もない。まるでずっと昔からそこにあったかのように、私と一体化している。
「っ、紗耶っ!」
この事はひとまずおいて、紗耶の亡骸に駆け寄る。
内臓が引き出され、顔は恐怖に固まっている。血で真っ赤に染まった紗耶の手を、自分の手で包み込む。
「紗耶・・・・・・」
冷たくなった手は、もう二度と動かない。
そっと手を外し、私は急いでさっきまでいた部屋に戻った。ベッドの上に畳まれていた布を手に、紗耶の元へ戻る。
優しく、布を紗耶に掛ける。
初めて話したときや、喧嘩をしたときのことを思い出しながら、そのまま紗耶のもとに立っていると足音が聞こえた。
「・・・・・・わっ・・・・・・!」
「西園寺くん?」
振り向いた先に立っていたのは、私のクラスメイト、西園寺拓真くんだった。
「一条さんっ?!」
驚いたように駆け寄ってくる西園寺くん。
「無事だったんだ・・・良かったぁ」
「西園寺くんこそ、良く無事だったね」
「僕はさっき起きたばっかだよ。一条さんの声がしたから来てみたんだけど・・・」
西園寺くんはそう言って床に視線を落とす。
狼もどきの死体と、紗耶がくるまっている布を、交互に見て、ゆっくり口を開く。
「これ・・・どうしたの?」
口調からはお惑いが感じられた。
私は西園寺くんを見ながら呟く。
「紗耶と、紗耶を喰った狼もどき」
「・・・狼もどき?」
「そう。・・・私も、西園寺くんと同じ。この屋敷の部屋で目が覚めたの。それで声がした方に向かったら、これがいて、紗耶は死んでた。・・・・・・信じてもらえないと思うけど、これを殺したのは私なの」
震える声を、必死で上がらないように気をつけながら事の顛末を西園寺くんに話す。
最初は不思議そうに話を聞いていた西園寺くんは、話が終わると、優しい声音で私に行った。
「僕に何ができるかはわからないけど・・・・・・できるだけ力になるよ」
「信じてくれるの?」
「うん。一条さんが嘘つくわけないじゃん」
自信満々に笑う西園寺くんに、胸の奥が熱くなる。
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