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半年後、俺は初めてクリスタル王国の外に出た。この間、城の中では誰かに狙われているような感覚が続いた。殺気こそ感じなかったが、何というか後ろ指を指されている感じだった。
城内を歩いていると、通りすがりにヒソヒソと俺に聞かれないように話しているのが分かった。何か俺の噂が広まっているのだろう。まったく…結局こっちの世界の人間もやってることは同じだってか。国王の息子だってことと、魔力量100万ということがなければ、異世界に来ても虐められていた可能性があったな…。俺は悲しい気持ちになった。
そんな気持ちを吹き飛ばす為にも、俺は外に出れたことに喜んだ。モニカが後ろからついてくる。クリスタル王国の窓からしか見れなかった賑やかな街が目の前に広がっていた。
「うわ〜、スゲェな」
表通りはとても整理されていた。混雑した人通り。ガラス越しに色々なものが売っているのが見えた。
クリスタル王国の街は2階建の住宅で1階が何かしらの店になっているケースがほとんどだった。街は清掃が行き届いているのか、ゴミ一つない。快適だった。
「この辺りはまだ上級国民や中級国民が住んでいて治安はいいのよ。でも、あの川の向こうにある下級国民の居住区には気をつけて下さいね。ロゼ様のその綺麗な服装だと、お金欲しさに追い剥ぎに会うかもしれませんからね」
モニカはそういった。
クリスタル王国には階級制度があり、上からから上級国民、中級国民、下級国民に分かれていることを教えてもらった。3つの大きな違いは金銭の差だ。お金がないと正しい魔術のだやり方も教えて貰えない。例えば下級国民に生まれると生まれてから死ぬまで同じ階級で途中でどんなに頑張っても上には上がらないルールらしい。
この話を聞いた時は流石に可哀想だと思った。虐められ、馬鹿にされていたからこそ、下にいる気持ちが痛いほど分かるのだ。
「えー、でも僕は向こうに行ってみたいなぁ。僕結構強くなってるよ」
「今はダメですよ。いくらサウザー局長に教えてもらって成長しているとはいえ、ロゼ様はクリスタル王国の王家の後継者ですのよ。何かあっては困ります」
「後継者だからこそだよ。僕はたまたま上級国民として城の中の恵まれた環境で生まれ育ったけど、そうでない人達もいる。そういう人達がどんな思いで暮らしているのか実際見たり聞いたりすることは大切だと思うけどなぁ」
それを聞いてモニカはまた驚いた顔をした。まぁ、普通は6歳のガキはこんなことを考えないだろうからな。
「ロゼ様、やっぱり賢い子ね。ロゼ様がもっと成長したら行かせてあげるわよ」
そう言ってモニカは俺の頭を撫でた。
それからは定期的に城の外に出るようになった。出る時はモニカにいちいち報告しなければならなかったが、自由に一人で外に出て散歩したり、おつかいを頼まれたりした。
「おお……これはロゼ様。エレナ様に聞いたのですが、城外に良くおつかいに行っているだとか。ワシにも少し頼まれてくれませんかねぇ」
そのしわがれた声の老人に話しかけられたのは、クリスタル城内でのことだった。
「ええ、おつかいに行くことが教育の一環でもあるそうなので、僕になんでも頼んで下さい」
俺はできるだけ清々しい表情を作ってそういった。
「実はのう、ワシはサーロン国王様に使える執事の一人なのじゃが、昨日部屋の掃除をしている時、サーロン国王様が使っているとある魔石を誤って割ってしまったのじゃ。それは映像の魔石といってな、下級国民でしか売ってないものなのじゃ。悪いがそこにおつかいに行ってくれんかな。あっ、もちろんエレナ様やモニカちゃんには内緒にしとくからのう」
「なるほど、確かに僕の父親は気が荒いですからね。バレる前に僕がひとっ走り行ってきましょう。このロゼに任せて下さい」
「おお、頼もしいのう。頑張る若者を応援するぞ」
そう言って老人は俺の手を取った。
「はい」
下級国民が住む地域の境目にある川に掛かっている橋を眺めた。思わぬところで向こうに行くことになった。俺は少しワクワクしていた。襲われたり何か有れば魔術で切り抜けてやる。サウザーから教えて貰った成果を早く実戦で試したいと思っていたところだった。
橋を渡ると今までの整理清掃された民家ではなく、木を基調とした作りの一軒家が並んでいた。どこからともなく、煙が上がっている。屋台での路上販売だった。店の展開の仕方や活気自体は上級国民や中級国民と変わらなかったが、人々の服装や街の清潔感というものがまるで違う。
一つ気づいたことがある。屋台で売り物をしている殆どが女性だった。男性はというと、大きな屋台の下で昼間っから酒を飲んでいた。古びた机の上には何やら金とカードが並んでいる。あらかたギャンブルといったところだろう。
俺は地図を見た。どれどれ、あの爺さんの言っていた魔石が売っている場所はもう少し先っぽいな。うーん、さっきから屋台の煙の旨そうな匂いが聞こえて来るんだよな。少し寄り道しても時間的に大丈夫だろう。-
ごった返した人の中、何処からかボールが飛んできた。俺は地図を見ていた為ボールに気づかなかった。顔面の横に衝撃が加わり、俺はふらついた。
「ごめんよ兄ちゃん。でもそんなところでボーとしてるのが悪いんだぜ」
俺が衝撃が来た方角を見ると、同い年ぐらいの男の子が三人こちらを指差していた。
「見ろよダニー、あの服装めちゃくちゃ高そうじゃね」
「ほんとだ、ここら一帯じゃあまり見ませんね。」
「もしかしてこいつ上級国民のボンボンか?」
俺はボールを拾った。その時、このボールには魔力が掛かっていると気づいた。
「おい、お前らこのボールはどうやって作ってるんだ。答えないと返さないぞ」
「は? なんだとボンボンが。カロ、ダニー、やっちまおうぜ」
「待て、冷静になれポタ。ボンボンさん、ボールには俺たち三人が風魔術を込めて作った特別性なボールなんだ」
三人の中で一番身長の高いカロがそういった。
「ボンボンさんは、魔力ボールって競技知ってますか?」
「魔力ボール?」
「なんだ、そんなんもしらねぇのか。こいつ話にならないぜ」
そういってポタは俺からボールを奪おうとやって来た。俺は足に力を入れて思いっきり飛んだ。屋根に着地する。
「待てよ、俺もその魔力ボールに混ぜてくれ。もし参加出来るなら返してやるよ」
俺はそういってニャッと笑った。
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