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下級国民では、ポタ、ダニー、カロ、そして、リックの母の四人の追悼が行われていた。この世界では魔術によって死体すら残らず死んでいくことも多いらしい。だからこそ、葬儀屋は魔術で三人の生前のホログラムのようなものを見せ、それに遺族や関係者が輪になって周りを囲み、追悼の歌を歌う。
俺はこっちの世界に来てから初めて悲しんだ。リックはもっと号泣していた。まぁ当たり前か。母親はもちろんのこと、ポタ、ダニー、カロとの仲も俺より長い。
夜になって俺はクリスタル王国の城内を流れる川にリックを連れて行った。今日はいつもより星が出ている気がした。
「俺は何か悲しい気持ちになったらここに来るようにしていたんだ」
俺はそういうと、川辺でゴロンと仰向けに寝転んだ。
「こうやって横になりながら星をを眺めてるとなんだか不思議と落ち着いくからな」
「へーこれは良いかもね」
リックも真似をして俺の隣で仰向けに寝転んだ。
「で、これからはクリスタル城内で暮らすんだったかな?」
「うん、君もサウザーさんもいってだけど、僕は生まれつき魔力量がかなり多い体質の人間で、また誰かに狙われる可能性がある。だから、自己防衛の為にもサウザーさんが稽古をつけてくれるそうだよ」
「クリスタル城内にはこの国で一番技術が発展しているし、飯もうまい。俺も王の息子だから当然城内にいる。それに強い味方もいる。心配はないさ」
「そうだね」
「だから、今日ぐらいは傷を癒そうって訳だ。俺も上手く言えないけどよ」
「うん、ロゼ君ありがとう。僕もロゼ君みたいに強くて勇敢な人間になって誰かを助けたり出来たらいいなって。そしたら今度こそ僕達みたいに悲しまずに済む人が多くなるのかなって思うんだ」
「その通りだと思う。今回のことで俺ももっと強くなっていかなくちゃなって思ったよ」
ふと気がつくと4つの星が線となって移動しているのが分かった。流れ星だ。それはまるで死んでしまったリックの母、ポタ、ダニー、カロが自分達の存在を空からアピールしているように見えた。
地下深く。一般的な上級国民すら存在が知られていないこの場所にウェルトはいた。包帯でぐるぐる巻きにされて、点滴のようなものを打っていた。
「死にかけるところだったぜ。まったくよ」
ウェルトは近くで刀の手入れをしている男に喋りかけた。男は薄暗い地下でもサングラスをしていた。
「なんだそっけないな。助かったのは正直に俺のおかげだと言ってくれてもいいんだぜ」
「ドラン、あんたは気絶していた俺を川から拾い上げて治してくれた。それは感謝している。だが、白魔術の攻撃を直接受ける瞬間、咄嗟に放出魔術を纏魔術に変換したんだ。だから体が潰れたに生き残ったって訳」
ドランと言われる男は椅子に座って何やら薬の調合をしていた。
「なら、なら俺のおかげだな」
「じゃあ、そういうことにしておこう」
ウェルトは面倒臭くなったのか、話を切り上げようとした。
「俺は今イラついているんだ。理由は分かるだろ?」
ここは城の最上階に位置する王の休憩室と言われる場所である。言葉の通り、サーロンの好物である肉を食い、酒を飲み、美女を侍らせていた。
「シルバーエンジェルがしくじったからですね」
チークが近くで同じく酒を飲んでから聞いた。
「最もその通りだが、少し違う。ロゼを殺り損った。下級国民の地ならば幾らでも隠蔽できたのにな。まさかウェルトのやつが負けるとはな。あんなに強くなってるとは思っても見なかった」
「ウェルトは表上、ロゼを殺しかけた悪人として指名手配しています。まぁ裏では私が地下深層部に匿っているのですが」
男はサーロンの正面で酒を飲んでいた。年齢は40歳ぐらいだろうか。茶色い髭が生えている。
「ドウマンよ、ロゼはシルバーエンジェルの噂を流しているのか?」
「本人は実際に戦ってる訳だし、多少は流しているでしょうね。でもまだでしょう。上級国民の殆どがシルバーエンジェルのことを知っていても手は出さないのですよ。なんたってサーロン様の直属という話を回してますからね」
「ふん、その辺りはよくやってるじゃねぇかドウマン」
「はっ、サーロン様にお褒めの言葉を頂いて光栄です」
ドウマンはうやうやしく礼をする。
「よし、この件はこれで終了だ。で、もう一つ。獣族のことはどこまで進んでいるんだ?」
「獣族は凶暴な者もいる。ロゼを殺す理由を作るチャンスはすぐにやってきますよ」
ドウマンは瓶に入っていた酒を一気に飲み干した。窓を見ると雨が降っている。それはまるで、これから来るドウマンの計画を予言しているようだった。
「本日より、サウザーさんの元に弟子入りしました。リックです。よろしくお願いします」
散乱とした筋トレ道具、こだまするダンベルを置く音。トレーニング中だった魔軍局の兵士達は、突然入ってきた細身の子供の言葉に一斉にこちらを向いた。
「ああ?」
「えっ?」
「おーいリック。俺たちはこっちで修行だぜ」
広場の方でロゼが呼んでいた。
「間違えたようです。すみません」
リックは慌ててドアを閉めた。
「まずはロゼ様に謝らなくてはならないことがある」
俺はリックと共に誰もいない広場でサウザーに呼ばれたのだ。
「なんですか?」
「実は以前、この世界の魔術の基礎には放出魔術と纏魔術があると言ったよな。あれ、実は一つ足りないんだよ。正確にいうと、相手の魔力を悟る能力。感知魔術だ」
「おお、新しい魔術か」
俺は内心かなりワクワクした。
「これがあれば例えば見えない敵だったり、遠くにいる敵の魔力を感知出来るってわけだ。ちなみに、俺がロゼ様がジャック村に向かったと分かったのもその感知魔術のおかげってこと」
-なるほど、これが有ればあの時、空からリックを探さずに済んだってことか。
「でも、この感知魔術はクセがあってね。一度身につけると常に感知モードになるんだ。だから寝てる時も誰が何処にいるのかを無意識に感知してしまう。これを成長期の子供に身につけせるのはなんだかなと思ってな」
「そんなことないよ。僕達はもっと強くなって大切な人を守れるようになるって決めたんだ。だから教えてください」
「僕もお願いします」
俺とリックは頭を下げた。
「うん、そうだな。ロゼ様は俺と感知魔術を、リック君はどの魔力性質かを知らなきゃな」
「おう」
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