おひとり様とおひとり様

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おひとり様とおひとり様

どこでも良かった。 過去を忘れられるなら。 1人になりたかった。 1人になったらやりたいことリストに書いてあったこと。 【ソロキャンプ】 そうだ、どうせなら一度は見てみたかった富士山、見に行こう。 ネットで色々調べてみて、キャンプ道具を一式、車のトランクに積むと、私は目的地を富士山に設定して車を走らせていた。 甘かった。 長距離運転も数える程しかして来なかった私はそこへ辿り着くのに、予定よりも大幅に遅れてしまった。 結局、途中でビジネスホテルに一泊することにして、翌朝、気を取り直してもう一度目的地の富士山の近くまでたどり着くことができた。 我ながら無茶をしたものだ。 でも、勢いって大事かもしれない。 なんだかんだ言って、お昼前には富士山が見えるキャンプ場にテントを張るところまでできた。 「うん、なかなかの出来︎♪」 満足気にテントの中から富士山を愛でる。 平日なので人も少ない。 バイクで走る団体様の姿が見えた。 少し離れたところに、手際よくテントの設営をしている人がいた。 車の中に置いてきた荷物を取りに行ったその時、 突風が吹く。 テントの固定が甘かったのか、ひっくり返ってしまった。 慌ててテントを戻そうと走る。 風が強くて押されてしまう もたもたしていると、 男「大丈夫?」 誰かが一緒にテントを建て直してくれた。 さっき近くで手際よくテントの設営をしていた人だった。 「あ、ありがとうございます」 男「ううん、固定、やろうか?」 「あ、すみません、お願いしてもいいですか?」 男「あと、ここ、眺めはいいけど、下がふかふか過ぎるから固定するならあっちの方がいいと思うよ?」 「え?そうなんですか?」 男「うん、俺の隣空いてるから移動します?」 「何から何まですみません」 男「もしかして、はじめて?」 「あ、はい、、ちょっとやってみたくて、、」 男「いいよね、ソロキャンプ」 「ちょっと1人になりたくて」 男「あ、ごめんごめん、固定したら行くから」 「え、あ、そういう意味ではなくて」 男「うん、わかってるw」 「ははw」 男「これでよし、と」 「おおお、がっちりですね」 男「少し角度をつけて杭を打ち込むといいよ」 「ありがとうございます」 男「それじゃ、困ったことがあったらいつでも声掛けて」 「はい!本当にありがとうございました」 1人になりたいと思ったのに、結局人にお世話になってしまう。 だめだなぁと少し落ち込んだけど、今はこの状況を楽しむことにした。 キャンプ用に購入した小さなガスボンベのコンロにミネラルウォーターを注いだコッフェルを乗せて火にかける コーヒーをいれようと、コンビニで買ったインスタントのカップコーヒーを用意する。 なんちゃってキャンプだけど、初心者の私はこのくらいがお手軽でいいのだ。 入り口を少しあけて換気しながら、テントの中でコーヒーの香りを楽しむ。 「来てよかった、、」 心からそう思えた。 スマホの履歴はまだ消せなかったけど、見ても前ほど胸は苦しくならずにすんだ。
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