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『別に。飛び込もうとか。してないよ』
俺の感覚は当てにならない。それは何度も思ったことだけれど、これは多分間違っていない。
彼女は俺を車道に飛び込ませようとしたわけじゃない。ただ。
『なんか。掴めそうな気がして』
さっき、彼がしたように彼の方の向こうの空に手を伸ばす。
ただ彼女は寂しくて、よく知っている温かな何かを掴みたかっただけなんだ。いや。掴んでほしかったのか。
その思いを、俺が勝手に拾って、引っ張られて。なれるはずもないのに彼女(彼女が望む誰か?ではなくて)の代わりに手を伸ばしていた。
だから、涙がでた。
だから、彼の手が離れたとき、名残り惜しかった。
極大の日。一時間に最大で10個ほども流星を見ることができる。
だから、俺が手を握ろうとしたその時に星が降ったのも多分、偶然だ。
『掴めたじゃないすか』
彼が笑う。
伸ばした俺の手の方を首を巡らせて見ていた彼が、俺の方に向き直って言った。
『うん』
俺は、星を握ったままの拳を、彼に差し出した。それは、彼の向こう側にいる車道で笑う彼女に向けてでもあった。
『あげる』
それも、二人に向けた言葉だったと思う。
ようやく、俺が飛び込むつもりでないことに安心したのか、彼は、俺の隣に並んで、道路の方を見て、それから、空を見上げて、最後に俺に視線を移して、握った掌を俺に差し出した。
『じゃ、俺のはあなたに』
付き合わせた握ったままの掌。
お互いに差し出した手を広げると、そこには何もないはずなのに、わずかに。ほんのわずかに燃え残った星の欠片が瞬いた気がした。
その星が大気に溶ける。
そうしたら、彼女は笑った。
今度は不純物のない透明な笑顔だった。
ありがとう。
彼女の唇がそう動いた気がした。
空を見上げると、また、一つ星が流れる。
あ。と、どちらともなく呟いた。声が白い吐息になって、黒い大気に溶ける。
並んでガードレールに身体を預けて、空を見上げて、俺たちは流れる星をいつまでも見ていた。
綺麗で少し寂しい夜のほんの些細なできごとだった。
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