ラブホテルで心を通わせる二人

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(こんな事で……っ)  マティアスが喜ぶ事があまりにささやかで、麻衣は思わず涙を零した。 「もっと……!」  麻衣の声も、震える。 「もっと幸せにしてあげるから! こんな、私を抱いた程度じゃない、とびっきりの幸せをあげるから!」  麻衣はマティアスの背中に手を回し、嗚咽しながら体を震わせる。  そして手に力を込め、きつくきつく、傷を負った獣を抱いた。 「……マイ……」  マティアスは顔を上げ、涙で濡れた目で見つめてくる。 (……綺麗な瞳……)  美しい青い目が、縋るように自分を見ている。  その、求める目にゾクゾクとした愉悦を得た麻衣は、無意識に蜜壷で彼の分身を締め付けていた。 「大丈夫だよ……っ。マティアスさんには、私がついてるから……っ」  麻衣は彼の髪を撫で、頬に両手を添えてキスをした。 「大丈夫……っ。絶対に幸せにするから」 『自分に何ができるのだろう』という疑問はある。  けれど〝何か〟ができるなら、全力で取り組みたい。  寡黙なマティアスを、荒野に立つ戦士のようだと感じていた。  彼の纏う空気は柔らかいとは言いがたい。  感情を表さない美貌や淡々とした口調から、最初は人付き合いが嫌いなのだと思っていた。  双子が感情豊かだからこそ、マティアスの感情の起伏のなさは際立って見えた。  しかし深い湖のような心の奥底を覗き込めば、様々な色の青の中に、彼の一筋縄ではいかない人生が詰まっている。  常人なら耐えられないつらい体験、深いトラウマ、そして心を抑え込まざるを得ない生き方――。  本当のマティアスは、それらの経験の奥底、闇にも思える深層に眠っていた。  だが彼の心は闇に塗り潰された訳ではなかった。  水底の泥の奥には、「幸せになりたい」という願望が砂金のように煌めいている。  彼が秘めた願望を見せてくれたからこそ、麻衣はその希望を叶えたいと思った。 (幸せになる事を、諦めないでいてくれたから……!)  ――彼の気持ちに応えたい。  だから、麻衣はぐっと決意を宿し、彼を幸せにしたいと宣言した。  だが彼は切なげに笑い、首を横に振る。 「……俺がマイを幸せにしたい」 「違うよ。一緒に幸せになるの。マティアスさんの幸せを無視して、自分だけ愛されて幸せになろうなんて思ってない」  麻衣は彼を抱き締め、自分の胸に彼の顔を押しつける。 「もう決めた。マティアスさんと結婚して、これから一緒に歩いていく」 「……マイ……」 「セックスも、結婚も、一人じゃできない。二人で相談して、一緒に幸せになろう」  マティアスを幸せにしたい。  彼もまた、自分を幸せにしたいと思ってくれている。  今までは好きな人に愛される気持ち、結婚したいと思うほどの感情を知らなかった。  だが今、麻衣はそれらを染み入るように感じていた。  彼女の言葉を聞き、マティアスの涙が新たに滴った。 「俺は格好悪い過去を告白した。……嫌われる覚悟もしていたんだ」  胸元で、マティアスのくぐもった声がする。 「何が格好悪いの? 私はそう思わなかった。酷い話だと思ったし、これから第二の人生を幸せに歩んでほしいと本気で思った。幻滅なんてしていないよ。私はそんな女じゃない」  言い切った麻衣は、マティアスの髪を撫でて彼の香りを吸い込む。 「大丈夫だよ。私はずっと側にいる。あなたを嗤わないし、あなたを拒絶しない」  なんて当たり前の事を言っているんだろう、と思う。  好きな人の側にいる。  愛するとか笑わせるとか、気持ち良くさせるとか、麻衣からすれば、努力しなければならないものではない。  側にいて彼を馬鹿にせず、拒絶しない。  人間として当たり前の気遣いを、マティアスは強く欲していた。  ――なんでこれだけの事を、こんなに求めるの。  いかにマティアスが人として扱われていなかったかを思い知り、また涙が出てくる。 「愛していいんだよ。普通に、心の赴くまま私に言葉をぶつけて、好きだと思ったらキスもセックスもしていい」  切なげに眉を寄せていたマティアスの目から、また新たな涙が零れた。 「……俺の愛は重たいぞ」  呟かれた言葉を聞き、麻衣は笑み崩れた。 「どんとこいだよ。受けて立つ。……そのままでいいんだよ。愛する事も、愛される事も、ためらわなくていいんだよ」  言ったあと、麻衣は「自分に向けての言葉でもあるな」と微笑んだ。  マティアスは切なげに微笑んだあと、破顔する。 「マイは強い女性だ」 「男性を『幸せにしたい』なんて、初めて思ったよ」  身に余る言葉が照れくさく、彼女はごまかし笑いをする。 「……俺は色々と欠陥のある人間だ。だがまともな人間になるために、少しずつ努力していきたい」 「うん」  マティアスはぐい、と目元を拭ったあと、麻衣の髪を優しく撫でた。 「今は、ちゃんと愛する女性を気持ちよくできると証明したい」  そう言ったあとマティアスは麻衣の乳房を左右から寄せ、両方の頂にキスをした。  そして蜜壷が自身の形に馴染んでいるのを確認してから、慎重に腰を引いた。 「ん……」  大きな屹立がズル……と動き、麻衣の肉襞をさざめかせる。  ゆっくり動かれるだけで、未知の感覚が全身を支配していく。 「や……っ、なにこれ……っ、ぁ、あ……っ」  マティアスが腰を前後させるたび、ゾクゾクッとした気持ちよさが、尾てい骨から背筋、首裏から脳天まで伝わり、麻衣は身悶えた。 「気持ちいいか? 痛くないか?」 「ん……っ、ん、まだ、分かんない……っ、けど……、ゆ、ゆっくり……」 「承知した」  マティアスはいつものように返事をするが、頬を紅潮させ少し息を乱していた。  彼は限界まで腰を引いたあと、麻衣の蜜壷にまたズブズブと屹立を押し込んでくる。 「マ、マティアス……っ、さんは? き、……きもち、……いい?」  麻衣はその感覚に腰を震わせながらも、懸命にマティアスを気遣っていた。 「あぁ。腰が溶けそうに気持ちいい。好きな女性を抱くとは、こんなに気持ちいい事だと思わなかった」  彼は額にうっすらと汗を浮かばせて微笑む。  その顔を見て、麻衣は安堵を覚えた。 「よ……かった……。んぁ……っ」  最奥まで届いた亀頭が、ずちゅう、と子宮口を押し上げてきて、麻衣は大きく息を吸った。  子宮口からお腹の深部に、ジン……染みるような感覚が訪れる。  疼痛とも言えるし、もしかしたら快楽かもしれない。  分からないからこそ、麻衣は目を閉じて真剣に感覚を研ぎ澄ませ、それが〝何〟なのか見極めようとしていた。  また、マティアスが腰を引く。 「ひぅ……っ、ぁっ、――あー…………、ん、んぅ……っ」  体の内側がさざめく感覚に、麻衣は知らずと悩ましい声を出してしまう。 「マイ……っ、……締ま、――る」  マティアスが、ふぅっ……と息を震わせながら吐いた。 (私の体で感じてくれているんだ……)  そう思うと、女としての悦びが全身を駆け巡る。  すると意識した訳ではないのに膣が締まり、マティアスが眉間の皺を深くする。  美しい彼の妖艶な表情を見ると、心の快楽を得てゾクゾクして堪らない。  麻衣は官能に彩られたまま、目の前の美しい雄に見とれていた。 (気持ちいい……っ。嬉しい、――――嬉しい)  悦びの感情が、ポコポコとあぶくのように沸き起こり、心を満たし、体からも溢れてしまいそうだ。 「好、き…………っ」  あまりに嬉しくて、ついそう漏らした。  マティアスは彼女の告白を聞いて一瞬瞠目し、――破顔した。 「俺も好きだ。愛してる、マイ」  マティアスはちゅ、ちゅ、と何度も麻衣にキスをし、何度も小刻みに突き上げてくる。 「んン…………っ、ん、ぁああ……っ、ん、む、――――ん、ふ……っ」  唇をついばまれ、子宮を押し上げられて、麻衣は甘い悲鳴を漏らす。  そうしていると、小さく開いた口の隙間から、彼の舌がヌルリと入り込んできた。  彼の舌を舐め、吸うだけで下腹が切なく疼き、麻衣はさらに秘部を濡らした。  気が付けばマティアスが動くたびに、グチュッグチュッと聞くに堪えない音がたっていた。 「気持ちい……っ、おか、――おかし、く、……っなっちゃう……っ」  麻衣はキスの合間に必死に息を吸い、切れ切れの声で訴える。  肉体の快楽を得ているというより、好きな人と体を重ねる事で、溢れんばかりの心の快楽を得ていた。  自分には女性的な価値はないと思っていたのに、こんなに愛されている。  こんなにひねくれた女を求め、このふっくらとした体を抱いて、泣くほど喜んでくれる人がいる。
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