ラブホテルで心を通わせる二人

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「す……好き……だけど……」  ぶっちゃけ、そういう問題ではない。  何をどう考えても、マティアスのような格好いい人の前で裸になるなんて無理だ。 (マティアスさんは外見を気にしないって言っても、私は気にするの!)  全体的にくまなくむっちり肉がついているし、お腹だってつまめるどころじゃない。  それなのに――。 「じゃあ、脱がせてもいいか?」  そう言ってマティアスが麻衣のニットの裾に手を掛けた。 「えっ? えぇっ!?」  彼はうろたえる麻衣のニットを脱がせ、丁寧に畳んで洗面台の上に置く。  その下はキャミソールなので、二の腕は剥き出しだ。 「スカートも脱がせるぞ」  そう言ったマティアスのは、ウエストのボタンを外してファスナーを下げる。 「…………っ、――――っ」  すぐ後ろにマティアスの体温を感じ、吐息すら感じる気がした。  うなじがゾクゾクして、首をすくめてしまう。  麻衣が緊張しているのを知ってか知らずか、スカートを下ろしたマティアスは後ろから抱き締めてきた。 「っっ…………!!」  ガチガチに緊張した麻衣の背中に、マティアスの体温が伝わる。  腕と腕は直接触れ合い、肌の滑らかさまで分かる。 「緊張してるのか? マイ」  耳のすぐ近くでマティアスの声がし、吐息が耳朶にかかる。 「ぅひゃあっ!」  緊張した上で耳元に吐息をかけられ、悲鳴を上げた。  ビクンッと両肩を跳ね上げて体を縮こまらせ、心臓が口から飛び出たかと思ったほどだ。  そんな彼女に、マティアスは哀願してくる。 「頼む。慣れてくれ。裸になって触れ合わないとメイクラブできない」 「っだ、だって……っ」  心臓が激しく鳴り、死んでしまうかと思った。  理由の分からない涙がこみ上げ、頭の中がグルグルして、どうしたらいいか分からない。 「好きだ。だから、マイの裸を見せてくれ」  プツンとブラジャーのホックが外され、胸元の圧迫感がなくなる。  麻衣は泣き出す寸前で、両手でキャミソールをかき合わせて震えていた。 「……怖いか? もし嫌なら、無理強いはしない」 「っご、ごめ……っ。ちが……違う、の。は、恥ずかしくて……死ぬ……」  顔を見られないまま告げると、マティアスは一瞬黙ったあとフハッと笑った。 「俺も恥ずかしい」 「うそ!?」  思わず彼を振り仰ぐと、マティアスはごく自然に微笑んでいた。 「好きな人の前で裸になるのは、誰だって恥ずかしい。平気だったり嬉しい奴は変態だ」 「は……、ははっ。そうだけど……」  そのつもりはないのかもしれないが、笑わせてもらった事で緊張がやや取れる。 「俺は全部脱いでいる。とりあえず〝同じ〟になってみないか?」  そう言われると、恥ずかしいのは同じなのに、自分だけ服を着ているのが申し訳なくなる。  マティアスが肩に手をかけ、ゆっくりと自分のほうを向かせた。 「俺たちはこれから気持ちよさをシェアする。夫婦になるなら何でもシェアだ。その前に恥ずかしさもシェアしよう」 「あ……あの……。私、太ってるから……笑わないでね」 「どうして笑う必要があるのか分からない。性的に興奮するものを笑う変態ではない」  こういう時、本心を隠さないマティアスの言葉は安心できる。 「じゃ、じゃあ……。脱がされるのは恥ずかしいから……、自分で脱ぐ」 「分かった」 「見てられるのも恥ずかしいから、先にお風呂に入って後ろ向いててくれる?」 「分かった」  マティアスはバスルームに入り、すぐにシャワーの水音が聞こえてくる。 「…………心臓飛び出るかと思った」  呟いて、麻衣は覚悟を決めながら服を脱ぎ、鏡に映った自分を見た。  マティアスが「酔っ払って愛し合いたくないから、酒はやめておく」と言ったので、麻衣も酒を飲むのをやめた。  なのに、鏡に映った自分は真っ赤な顔をしている。  顔は可愛いとも何とも言えない、実に凡庸な顔だ。  胸はEカップある……けど、体には相応に肉がついている。  肩は曲線を描いてなだらかで、どこもかしこも丸みがある。 「でも……。求めてくれてる」  不安な顔をした鏡の中の自分を励まし、麻衣は深呼吸をしてからバスルームに入った。  マティアスはもう湯船に入り、浮かんだピンクのプルメリアを手で弄んでいた。 「ま、まだ後ろ向かないでね。体と髪、洗っちゃうから」 「ああ」  風呂場なので声が反響して、それがまた恥ずかしい。  麻衣はシャワーのコックを捻り、何も考えず髪を洗い、体も洗った。  マティアスが振り向かないかチラチラ確認し、変な音が出ないように細心の注意を払って、念入りに秘部を洗った。 (あそこ、変じゃないかな。香澄、脱毛とか色とかどうしてるんだろう。聞いておけば良かった。……でも今さら間に合わない)  今までこんな経験はもちろんなかったので、気がおかしくなってしまいそうだ。  最後にシャワーで泡を洗い流し、覚悟を決めた。 「……お、お邪魔します……」 「ああ」  水面に浮かんだプルメリアの花に、花を重ねていくという暇つぶしをしていたマティアスが、麻衣のために端に寄ってくれる。  マティアスは麻衣が完全にお湯の中に入るまで横を向いてくれていた。  やがて波打っていた水面が鎮まった頃、彼が「そちらを向いてもいいか?」と尋ねてくる。 「い……いい、けど……。あんまり見ないでね」  幸いだったのは、バスソルトでお湯の色が変わり、体があまり見えない事だ。  しばらく沈黙があり、自分の鼓動だけでお湯に波紋ができるような錯覚すら覚える。  麻衣はゴクッと唾を嚥下した音が聞こえてしまわないか、黙ったまま焦りに焦る。 「触れてもいいか?」  だがそう尋ねられ、「へぁっ?」と間抜けな声が漏れた。 「う、う、……うぅ、い、……ちょ、ちょっと……なら」 「抱き締めさせてくれ」 「えぇっ!? 裸で!?」  思わずぐりんっとマティアスを見ると、黙っていても美形な男が、髪を濡らした姿でこちらを見ていて「無理!」と瞬時にそっぽを向く。 「少しずつ慣らしていかないか? いきなり上級者向けな事はしない。初級から行こう」 「う、うぅ……。いい……けど……」  小さな声で返事をすると、マティアスが麻衣を後ろから抱き締め、脚を伸ばした。  図らずもお腹の前でマティアスの手が交差し、麻衣はカァーッと赤面する。 「あ……あの。できればお腹は触らないでくれると嬉しい。……お肉がついてるから、恥ずかしい……」 「そうか? 触り心地が良さそうで全部触りたいが。じゃあ、こっちはいいか?」  そう言ってマティアスは、突然ぱふっと麻衣の乳房を手で包んできた。 「!!!!!」  麻衣はマティアスが後ろにいるのをいい事に、目を剥いて物凄い顔をする。  だが彼女の体が強張ったのを感じ、マティアスが耳元で尋ねてきた。 「嫌か? 揉まれる練習をしてみないか?」 「う……うう……」  何も言えずにうなる麻衣の乳房を、マティアスは優しく揉んでくる。 (っなに……これ……っ。変、な、……感じ……)  今までセックスとは縁遠く、代わりに社会勉強のつもりでエロ動画を見ていた。  動画では女優が胸を揉まれ、乳首を摘ままれて甘ったるい声を出していた。  早い段階であれは演技と知り、アダルト動画の真似をして秘部を乱暴に愛撫するのを〝ガシマン〟と呼ばれて嫌われている事も知った。 『実際はどうするのが正解なんだろう?』と疑問に思ったまま、この年齢になってしまった。  女性向けの風俗があるのは知っていて、最悪それで経験してみようか……とも思った事はある。  だがお金を払うとはいえ、自分のような女を仕事で愛撫しなければいけない男性に申し訳なく、勇気が出ない。  きっと〝ハズレ客〟と思われると想像すると、考えるだけでつらくなった。  大人の道具も恥ずかしくて手を出せない。  電動系の物は音が出るらしく、一人暮らしなのに特徴的な音を立てていたら近所の人にバレそうだ。 『お前そんなデブなのにオナニーするの? あ、デブだからか』と思われそうだ。  結局、『私みたいなの喪女っていうんだろうな』と思いながら、こじらせ処女を貫いてきた。  何度か自分で胸を揉んでみた事もあったが、ちっとも気持ちいいなど思わなかった。  ――なのに、だ。  マティアスの大きな手に包まれてやわやわと揉まれただけで、思わず体をくの字に折って悶えたくなる感覚が襲ってくる。  くすぐったい、というのともまた違う。  体の深部がモゾモゾして、どうしようもなくなる。  堪らなくなって身じろぎすると、お尻に硬いモノが当たった。
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