ラブホテルで心を通わせる二人

10/13
前へ
/969ページ
次へ
「……ごめん。その……。いきなり舐められるのは抵抗がある。普通の恋人たちが、そういう事をしているのは分かってる。でも私は初めてで、愛情表現の一つだと分かっていても、まだ恥ずかしい。……だから、一気に色んな事をするんじゃなくて、少しずつにしてくれたら助かる。……私も、少しずつ自信をつけていきたい。そうしたら抵抗が少なくなる……かも」  思っている事をきちんと話すと、彼はあっさり受け入れてくれた。 「分かった。恥ずかしい思いをさせて悪かった」  マティアスは頷いたあと、手を伸ばして枕の下から避妊具の箱を取りだした。 「えっ……!? は、箱……」 「アロクラに『日本のホテルに置いてあるスキンは、サイズが合わない』と忠告された。だから途中で寄ったコンビニで買った」  確かにホテルに寄る前にコンビニに行き、飲み物などを買った。 (……って言っても……XL!?)  マティアスが手にしている箱には、XLと印字されている。  彼は箱の中から避妊具を一つ取りだし、パッケージを破って自身の屹立に被せる。 (ああやってつけるんだ……。じゃ、なくて!! でかっ……)  先ほどもマティアスの男性器をチラ見したが、今はショックのあまり、呆然として直視してしまった。 「……は、入るの……? それ……」  麻衣は思わず尋ねてから赤面する。  そんな彼女を見て、マティアスはやや不安そうな顔をした。 「人種により、ペニスの大きさとヴァギナの深さは比例しているらしい。俺たちは人種が違うから、性器のサイズが合わないかもしれない。無理にすべて入れるつもりはないが、試しに挿入してみて、無理そうだったらやめよう」 「…………ホントに……」  麻衣は膝を閉じ、仰向けにばふっと倒れる。 (本当にこの人、理性的だ。普通の男ならラブホでここまでして『やめよう』なんて言えないと思う。サイズが合わないとかも一般常識かもしれないけど、この状況でちゃんと理由を言って説明できるとか……。ホントいい男すぎて……)  麻衣はゴロンと横向きになり、赤くなった顔を両手で覆う。 (すっっっ……きだなぁ…………)  胸の奥がキューッとなり、どうにもならない。  最初は「この淡々とした人と、ムードのある雰囲気になるんだろうか?」と疑っていた。  けれど話せば話すほど、彼の魅力が分かってくる。  明るいとか笑わせてくれるなどより、自分だけを真剣に想ってくれる気持ちのほうが、ずっと大事だと思い知った。 「チャレンジしてみてもいいだろうか?」  マティアスは麻衣の体の両側に手をつき、顔を覗き込んでくる。 「う……、ん……。ゆっくり、してくれるなら……」  返事をすると、マティアスに優しく髪を梳かれる。  真剣に自分を求めてくれているのは分かったし、ここで寸止めしたら、いくら何でも可哀想だ。  処女なのでうまくできるか分からないが、ここまできたなら勇気を出さなければ。 「ありがとう」  微笑んだマティアスが脚を広げても、麻衣は抵抗しなかった。  彼は花弁に触れ、彼女の濡れ具合を確認してから言った。 「痛かったら言ってくれ。すぐやめる」 「うん」 (こうなるなら、香澄から初体験の話をもっと聞いておけば良かった)  そう思うものの、香澄の初体験は健二で、良くない思い出だ。  今は佑とラブラブの生活を送っているのに、別の男との初体験を思い出せさせるのは申し訳ない。 (自分の初体験は自分のものだ。人と比べても仕方がない)  気持ちを落ち着かせていると、蜜口に亀頭が押し当てられた。 「久しぶりだから、下手だったらすまない」 「ううん」 「マイの初めてをもらえて光栄だ。……愛してる」  マティアスはそう言って麻衣の唇にキスをした。  そのあと、自身の屹立に手を添えてグッと腰を進めてきた。 「ん!」  初めは、本来〝ない〟場所に、何かが無理に入ろうとしている……と感じた。  と思ったら、酷い生理痛がきたような疼痛が下腹部を襲う。 「……痛いか?」  マティアスは眉間に皺を寄せ、真剣な表情で尋ねてくる。  気持ちいいと思ってくれているのか、彼はこみ上げる欲情を必死に抑えているようだった。  そんなマティアスの〝久しぶり〟と自分の〝初めて〟をちゃんと成功させたいと思い、麻衣は「大丈夫」と首を横に振った。 「ゆっくり……して」 「分かった」  頷いたマティアスは細く長く息を吐き、麻衣を見つめながら腰を進めてくる。 (いた……い……)  麻衣はギュッと目を閉じて呼吸を整え、マティアスの手首を掴む。  今までは、処女膜さえ破ってしまえば問題なくセックスができるとか、意味不明の事を考えていた。  処女を失う時は痛いと知っているものの、その直後の知識がなかったのだ。  だが、実際はそうはいかない。  疼痛がずっと続くなか、男性器がさらに奥に入ってくる。  下腹部は痛みで麻痺し、屹立がどこまで入っているのか想像すらできない。  ただ、お腹の中に異物が入っているのは分かる。 (処女、捨てられたんだ……)  麻衣はマティアスの香りを吸い込み、自分が〝愛されている〟実感を抱く。 (初めての相手が、私を好きになってくれる人で本当に良かった)  マティアスと出会うまで、将来自分の隣に男性がいる光景を、まったく想像できなかった。 『一人でも大丈夫』と強がりながら『一生処女なのかな?』と寂しく思う気持ちもあった。 『私みたいなのを抱く物好きはいない』と思うと、惨めだしとても悲しかった。  かと言って〝孔〟ならなんでもいいという男を相手にするのは嫌だ。  高校、大学時代の女友達は、身軽に処女を捨てていった。  比べて自分は、合コンをしても誰にも〝お持ち帰り〟されない。  なのに変なプライドがあり、自分から男性を誘う事もできなかった。  そんなこじらせ処女が、今、自分の事を好きで堪らないと言ってくれる男性に、初めてを捧げられている。 「……っ、良かった、……なぁ……」  気が付けば涙を零し、そう呟いていた。 「マイ?」  優しく頭を撫でられたが、麻衣は「ううん」と首を振ってマティアスを抱き締めた。 「幸せだな……って思って。……マティアスさんとこうなれて、嬉しい……」 「俺もだ」  マティアスは幸せそうに微笑み、コツンと額をつけてくる。  そしてすりすりと鼻を擦り合わせてきた。 (優しい人だな……。この人を幸せにしたい……)  自然と涙が零れ、麻衣は泣き笑いの表情でマティアスを抱き締める。  お腹はまだ痛重いけれど、彼を受け入れられているのならどうって事はない。  やがてマティアスは背中を丸め、麻衣の耳元で溜め息をついた。 「……この辺にしておこう」 「……全部、入ったの?」 「多分、どれだけ解してもすべては入らないと思う」  マティアスはそう言って微笑み、麻衣の手を取って甲に口づけた。 「つらくないか?」 「……少し痛い。けど、つらくはない。幸せだよ」 「そうか」  微笑みかけると、マティアスも優しく笑ってくれた。  彼は愛おしむ目で見つめ、あちこちを優しく愛撫してくる。  まるでそこに麻衣がいるのだと、確認しているような手つきだ。  あまりに大切に扱われるので、多幸感で気持ちがフワフワしてきた。  目を閉じて彼の愛撫に身を任せていた時――。 (ん……?)  肌に何かがポツッと滴ったのを感じ、麻衣は目を開けた。  すると――、マティアスが涙を零している。 「どっ……、どうしたの!? い、痛い!?」  起き上がろうとすると、「いや、違う」と言ってマティアスが覆い被さってきた。  そのまま抱き締められ、彼のぬくもりに包まれる。  加えて彼の震え――嗚咽も感じた。  マティアスは、耳元で熱く震えた声で告げる。 「嬉しい……んだ。勃起不全になってエミリアに『能なし』『役立たず』と言われていた俺が、愛する女性を見つけて、興奮して勃起できた。そして、麻衣を抱けている」 「――――……っ」  マティアスの言葉を聞き、麻衣は彼の過酷な過去を思いだす。  大体の一般男性が〝普通〟にできる事を、マティアスは三十歳にしてやっと叶えられた。  彼の友人たちは、今頃恋人や妻と幸せに暮らしているのだろう。 〝普通〟の生活を送れていなかった彼は、〝普通〟に生きている友人を見て、どれだけ羨んだだろう。  肉体的な強さや大金を得ても、両親をメイヤー家に人質に取られ、自由がなかった。  すべてを捨てれば、両親の命の保証はない。  彼は普通に笑う事もできず、心を凍らせたまま、愛する女性を作れない人生を送っていた。
/969ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4573人が本棚に入れています
本棚に追加