ラブホテルで心を通わせる二人

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 心は純粋な悦びに満たされ、感情が昂ぶったあまり涙が零れた。  マティアスが遠慮がちに腰を突き上げるたび、麻衣はこの上ない喜悦を得る。 「ん……っ、あぁっ、あ、――ん、もっと、……動いて、……いいよ……っ。気持ちいいって、思って、――くれて、るなら、……好きにして、……っいいから……っ」  喘ぎながらも、麻衣は自分はまだセックスで絶頂できない事を察していた。  けれどマティアスは違う。  処女は達きにくくても、、男性は快楽を得ると射精する。  分かっていても、今はマティアスに気持ち良くなってほしいと思っていた。  暗く悲しい道を歩いてきた彼に、幸せと悦びを感じながら絶頂してほしいと、麻衣は無償の愛で願った。 「……っだが……っ」  マティアスは荒々しい呼吸を繰り返し、麻衣を気遣う。 (その気持ちだけで十分だ……)  彼の優しさを感じ、麻衣はクシャッと笑った。 「いいの……っ。今日は、マティアスさんの呪いを解く日だよ。……っ、今までの、つらかった事、苦しかった事、――ぜんぶっ、私に預けていいから……っ。それで、気持ち良くなって……? マティアスさんの今までの感情、私に半分持たせて……っ」  彼の頭を撫でると、マティアスは泣き崩れそうな顔で笑った。 「……ありがとう。次は、絶対マイを達かせる。『もういい』って言われるほど、気持ち良くするから」 「ん……」  視線を交わして微笑み合ったあと、マティアスは上体を起こして麻衣の腰を抱え、本格的に腰を打ち付けてきた。 「んっ、ん、……ん、あ、あぁ、……っあ、あっ」  突き上げられるたび、声が出てしまう。  体の奥を押し上げられると、ほんの少しの苦しさと疼痛がある。  だがそれよりも、体中を駆け巡る快楽と幸せのほうが強い。  麻衣は僅かに残った理性で胸とお腹を隠そうとしたが、マティアスに両手首を掴まれ、シーツに縫い止められてしまった。 「っ、すべて、見せてくれ……っ。俺の愛する女性の姿を、あます事なくすべて……っ」  真剣な目で乞われ、麻衣は観念した。 「――わ、……かった、……も、……隠さ、ない……っ」  全身にマティアスの視線を感じ、恥ずかしくて堪らない。  けれど自分の裸を見る事がマティアスの悦びに繋がるのなら……と思い、我慢した。 「マイ……っ。好きだ……っ、好きだ……っ」  マティアスは快楽に表情を歪め、額に汗を浮かべて麻衣を求めてくる。  ズチュッズチュッと最奥まで太い肉槍で突き上げられるたび、麻衣は嬌声を上げて身を震わせた。 (なんて幸せなんだろう……)  麻衣は夢中になって腰を振るマティアスを見て、無上の歓びを感じる。  初めて蜜壷に含んだ男根は、硬くて大きく、お腹がはち切れてしまいそうだ。  彼が動くたびに麻衣も全身に汗を掻き、ハァハァと息を乱している。  あんなに憧れ、叶わないがゆえに馬鹿にしていた行為が、こんなにも気持ちよく幸せで堪らない。 「ぁ……っ、あぁ、マイ……っ」  マティアスは歯を食いしばり、ガツガツと腰を叩きつけてくる。 「んーっ、あぁ、あ……っ、マティアス……っ、さ……っ」  最後にマティアスは背中を丸め、息が詰まるほど激しく突き上げたあと、ぐぅっと亀頭で最奥を突き上げ、胴震いした。 「――――く、……ぅ……っ、あぁっ」  膣内でマティアスの屹立が大きく膨れ上がり、ビクビクッと震える。 (……あ。これが……、達ってる……、の……?)  麻衣は潤んだ目で天井を見て、射精している彼を抱き締める。  マティアスも両腕に力を込め、痛いほど麻衣を抱き締めてきた。  彼はさらに何度か突き上げて最後の一滴まで射精し終えたあと、ハァハァと激しく呼吸を繰り返し、体重を預けてくる。 (……終わった……?)  麻衣はセックスで絶頂できなかったが、とても満たされていた。  最初は彼が与えてくれる刺激に翻弄されていたが、途中からはただマティアスに気持ちよくなってほしいと思っていた。  苦しみ抜いた彼が、最後に幸せの象徴として求めてくれたのが自分だ。  何の取り柄もない平凡な自分を彼が選び、〝特別〟にしてくれた。 (これからも、精一杯マティアスさんを癒やしてあげたい。愛したい)  麻衣は哀れみだけでなく、純粋な愛情からそう思っていた。  だから、今はセックスで絶頂できなくても大丈夫だ。 「……だい、……じょうぶ……?」  呼吸を乱した麻衣は、そろりと尋ねる。  彼女の声を聞いてマティアスはノロノロと顔を上げ、ボーッ……とした顔で見てきた。 「……どうしたの?」  心配になってまた問うと、彼はまだぼんやりしたまま柔らかに笑う。 「今までの何よりも、一番に、最高に気持ち良かった……」  そう言われ、麻衣はクシャッと笑って彼を抱き締めた。 「それは、……良かった……」  ふはっと笑った麻衣は、愛しさのままに彼の背中をポンポンと叩く。  やがてマティアスは、繋がったまま麻衣を抱いてゴロンと横になり、愛しそうに麻衣を見つめて丁寧にキスをしてきた。 「ありがとう、マイ」 「どういたしまして」  微笑んだ麻衣を見て、彼はまたキスをしてくる。 「……マイを達かせてやれなくてすまない。不甲斐ない」  謝る彼を見て、さらに愛おしさが募った。 「気にしないで。それに初めてで達くって難しいと思う。それより、マティアスさんが気持ち良くなってくれて良かった。私は沢山気持ち良くしてもらったから、今日はこれでいい」 「本当か?」  彼は不安そうな目で見てくる。 「こんな事で嘘なんかつかないよ。気持ちいい事よりもっと大切な事があるの」  そう言って麻衣はマティアスに抱きつき、彼の胸板に顔をつけて目を閉じた。  マティアスの胸板の奥で、心臓がドクッドクッと力強く鳴っているのが聞こえる。  ――ああ、この人、生きてるんだ。  当たり前の事なのにとても嬉しく、麻衣は幸せそうに微笑んだ。 「……沢山の絶望を乗り越えて、……今こうして生きていてくれて、ありがとう」  自然とそんな言葉が出た。  マティアスが静かに息を呑んだのが分かったが、構わず続ける。 「変な事を言ってごめんね。でも凄くそう思うの」  麻衣は目を閉じて、マティアスの息づかいや体温、鼓動を感じた。  そうしていると、新宿のラブホテルにいるのに、二人だけが世界から切り離された場所にいるように感じられた。  マティアスはしばらく麻衣を抱き締めていたが、やがてポツリと呟いた。 「今まで『メイヤー家から解放された人生は、素晴らしいに違いない』と信じていた。自由になった未来にだけ希望を持ってきた。……だから、きっと神様は『よく耐えた』と、褒美として俺にマイをくれたのかもしれない」 「……だとしたら、嬉しいな」  麻衣は穏やかに笑い、そっと彼の匂いを嗅ぐ。 「愛してる。……これから、宜しく頼む」  マティアスは麻衣の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。  そして愛しげに囁いて、想いのこもったキスをする。  優しい唇が離れたあと、ジワジワと恥ずかしくなった麻衣は、またマティアスの胸元に顔を伏せた。 「も~っ! …………好きだなぁっ!」  麻衣は照れ隠しで少し大きな声で言ってから、嬉しさのあまりクスクス笑った。  それを聞いてマティアスも笑ってくれる。  彼が柔らかに笑い、感情を見せてくれるのが嬉しくて堪らない。 (香澄に報告する事が沢山増えちゃった。恥ずかしいけど、女子会しないと)  勿論、マティアスとの間にあった事を、一から十まで話すつもりはない。  相手が香澄でも、彼が自分から言わない限り黙っているつもりだ。  けれど香澄がいなければ、彼と出会えなかった。 (きっと香澄なら祝福してくれるはず。自慢の親友だもの)  御劔邸にいる親友を想った麻衣は、「報告するのが照れ臭いな……」と思いながら、残るデート時間を大切にしようと思った。 **  同時刻、香澄は夕食を食べて満腹になり、リビングのソファに座った佑にもたれかかり、ウトウトしていた。  双子たちは夕食後にまた飲みに行き、今は佑と二人きりだ。 「眠いか? 無理して起きていなくても、横になっていいんだぞ?」  舟を漕いでカクッとなった時、佑が小さく笑って支えてくれる。 「ん……。んぅ」  香澄は少し零れた涎を拭い、目をしょぼしょぼさせて伸びをした。 「ちょっと疲れたみたい」 「確かに家に客がいると、気心知れた相手でも気を遣うよな」 「ん……。でも、麻衣と一緒に過ごせるのは嬉しい」  その麻衣は今、マティアスとデート中なのだが……。 「ねぇ。麻衣とマティアスさん、うまくいくと思う?」  親友の恋が始まるかもしれない事を思うと、嬉しくて堪らない。  ニヤつく香澄を見て、佑は苦笑した。
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