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◇
ここは、とあるリゾート地の海辺にあるボート小屋のなかだった。
ラースは家族とともに、近くのホテルにバカンスにきていた。父の弟の、ヘンリック叔父の一家もいっしょだった。
昼間、海岸で、少し年上と思われる二十歳すぎの、かわいい女性と知り合いになった。彼女から、夜の八時にこのボート小屋で待っている、とささやかれた。
ラースは十八歳で、ガールフレンドには事欠かないほどモテるたちだ。だから疑いもせず、約束の時間にここへやってきた。ボートはなく、小さな明かりが灯っている。ラースは、桟橋の上で、魅力的な彼女を抱きしめた。 と思ったら、突然腕をひねられ、両手首に手錠をはめられた。
なにをする。
そう言うまもなく、海中に突きおとされていた。手錠の鎖にはロープが交差していた。女はロープの端を、桟橋の上に設けられた係船用のビットに縛りつけた。ラースは、万歳をして、海中にのびた柱に向きあう格好となった。
「くそっ」
ようやく声を出した。両手で柱にすがり、桟橋の板に手をかける。
だが、その手の指を、女がローヒールのかかとで乱暴に踏みつけてくる。
「うあっ」
たまらず、また水中に没した。
そのとき突然、ラースのそばの海のなかから、白髪の老婆が浮かびあがった。老婆はラースの肩に手をかけ、強引にその身体を反転させた。暗い海面を通して、老婆の裸の上半身ばかりか、下半身までが見てとれた。腰から下に、魚の尾ひれがついていた。つまり、老婆は人魚なのだった。
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