人魚姫はいま

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「くっくっくっ」  と、老婆は気味の悪い笑いかたをした。「美形だねえ。あの人にそっくりだ」  老婆はしわだらけの手をのばして、顔をさわりにくる。 「よせ。やめろ。さわるな」  ラースは首をふって抵抗したが、無駄だった。両手でほほをはさまれた。老婆の指の爪が、ほほに食いこむ。彼女の手はひどく冷たかった。  目の前に、老婆の顔が迫ってくる。  醜い顔だ。  きつい三白眼。魔女のような鷲鼻(わしばな)。横に裂けそうな口。  なにより、その顔の表面だ。顔中に泡が吹きでたあとつぶれたように、あばたが全面に広がっている。正視に耐えない。  ラースは目だけをそらした。  もちろん、本当は、老婆から逃れたいのだ。だが、それは不可能だった。  ラースはいま、胸から下が海水につかり、桟橋(さんばし)に固定されていた。万歳の姿勢をとり、両手首には手錠がはめられている。手錠の鎖は、ロープによって、ラースの背後にある、桟橋のビットにつながれているのだ。
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