アンデス神話 第二話 アタグフ様と世界の始まり ~あるいは雷光と雷鳴の由来~

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アンデス神話 第二話 アタグフ様と世界の始まり ~あるいは雷光と雷鳴の由来~

 洋の東西問わず、人が集まる所にはさまざまな物語や神話が語られるもの。  それは、はるか昔氷河の終わりに旧大陸との交流が絶えた南米でも例外ではありませんでした。  場所は南米、時はインカの御世。アンデスの山々から海へとかけて栄えた人たちが伝えた神々や精霊の物語の中に、一編の興味深い物語がありました。  人々が語り継ぐは、人の誕生と雷光と雷鳴の始まりの記憶。  それでは、雷が如何にしてこの世を生まれたか耳を傾けてみましょう。  昔々、アタグフと言う神様が世界のあらゆるものを創って、自ら天上界を支配することにしました。 え?世界を創造したのはヴィラコチャ様じゃないかって?いや、ヴィラコチャ様も世界を創ったけどアタグフ様もアタグフ様で創ったんですよ。神話にはよくあることです。気にしちゃいけません。  ともあれ、天上界ではアタグフ様がふんぞり返って偉そうにしてましたが、大地の上ではグァチミネと言う部族が住んでいて我侭放題したい放題を繰り広げていました。  グァチミネとは、「光なき者」や「闇の子」といった意味の言葉です。名前からして碌な者ではありませんね。創造神を名乗る以上グァチミネ族もアタグフ様が創ったのでしょうが、アタグフ様もわざわざ悪く創らなくてもよさそうなものですが。  それはさて置きアタグフ様、ある時人類の始祖であるグァマンスリという男を呼び出して、 「いいかい、これからお前は地面に降りて、自分の子孫を増やすんだよ」  と言い聞かしました。そこでグァマンスリは天上界から大地に降りてきてグァチミネ族の女性を娶りました。が、それが面白くないグァチミネ族はグァマンスリを憎みます。 「グァマンスリめ。アタグフから言い付かって大地を乗っ取りに来たな。まったくもって生意気な奴だ。そもそもの先住権はどちらにあると思うのか。目に物見せてくれるわ」  などと話し合って、さっくりとグァマンスリを亡き者にしてしまいました。まぁ、少し考えればこうなることは解りそうなものですがね。アタグフ様、読みが浅いです。  しかし、それで簡単にすまないのが世の常です。  月満ちて残された妻が双子を出産しました。双子の子供はアポ・カテキルとピゲラオと名づけられました。  やがて大きく成長した二人は、 「グァチミネ族は父の仇だ。一人残らず始末してくれるわ」  などとほざきました。  いや、お前ら母さん誰で、お前ら半分何族よ? なんて突っ込んではいけません。神話なんてそんなものです。  兎にも角にもグァチミネ族は仇だと言い切ってしまった双子は、思い立ったが吉日とばかりに彼らを追い回して一人残らず始末してしまいました。  母親は息子ども止めなかったんですかね?もしや、一緒に始末されたとか?  邪魔者が一掃できてすっきりしたアタグフ様、アポ・カテキルに黄金の鋤を授けて、 「大勢の人間がグァチミネ族によって大地に埋められてるから、この鋤で掘り返してあげるといいよ」  と言いました。  人が埋まってるのに鋤で耕したら危ないだろうとか、黄金の鋤なんて重くて持てないだろうとか、色々あると思うのですがアタグフ様の知ったこっちゃないようです。  そして同じくそんなこと知ったことかのアポ・カテキル、アタグフ様の言いつけにしたがってそこらじゅうを掘り返しました。  すると埋められていた人間達が続々と槌から出てきました。  その人達こそが、今日アンデスに住む人たちのご先祖なのです。  だからアンデスの人達はアポ・カテキルを人類の創造者として尊ぶのです。  こうしてお偉いさんになったアポ・カテキル、何故かスリングで石を投げ飛ばす趣味があるようで、この際に発する火花と音が雷鳴と雷光になったと言う事です。  え?双子の片割れのピラゲオがどうなったかと?  さて、それは語り継がれぬこと。知らぬうちに表舞台から消えることはよくある事ですよ。 めでたしめでたし
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