都芝朝陽のモノローグ

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都芝朝陽のモノローグ

 これで終わりにしよう。もう何度、そう心の内で呟いたのかわからない。雨は止まず、責めたてるように肌を打つ。もうすぐ夏だというのに夜は冷めきっている。  終電はとっくに行ってしまった。タクシーを捕まえようとして通りに出たはずなのに、俺は何故かそうせずに歩き続けていた。  アオの顔が浮かんだ。折角綺麗な顔してんのに、何が気に入らないのかいつも仏頂面なんだよな、と何だかおかしくなって笑ってしまったけど、その途端に虚しくなってやめた。  タクシーが一台、横を通り過ぎてゆく。腕が重くてとても手を挙げる気分になれずに見送った。遠くでブレーキランプが赤く滲んで、やがて見えなくなった。  歩いて、歩いて、歩き続けて、このまま時空さえも飛び越えてどこかにたどりつけるのならば、俺はアオに出会う前の日々に戻りたい。そこからやり直したいなんて思わない。俺は違う道を歩きたい。アオの事を好きにならない道を、アオの事を自分勝手に傷つけない道を、何も考えずに遊んで、はしゃいで、大学を卒業したらそれなりのところに就職して、好きな女と結婚して、子供を授かって・・・そんな道を。  今からだって遅くない、やり直せると思うのに、同時にそんな事できるはずがないとも思っている。その行ったり来たりを何度繰り返してきただろう。そしてこの先何度繰り返せば、この気持ちは終わりを迎えるのだろう。  またふいにアオの顔が浮かんだ。アオだけじゃない、そのまわりに見覚えのある風景が広がって、俺はそれがどこなのか思い出そうとして記憶を辿った。
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