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 ある女性、老婦人の屋敷で働くことになる。その老婦人には変わったところがあって、普段は慈善活動や寄付はいっさいしないのに、屋敷をおとずれる浮浪者に対しては惜しげもなく施しをすることだ。気にはなるが、理由を聞くほど親しい関係ではない。なぞのまま季節がすぎて秋が来た。老婦人の様子がおかしくなる。自分が死ぬとしたら秋だ。今年の秋か来年の秋かわからないが、秋に死ぬことは決まっている。と取り乱す。女性がどうしてですと聞いてもこたえてくれない。その夜、女性は屋敷の外からほうきで落ち葉をはく音を聞いた。窓からだれがはいているのか見る。男性のようだ。しかし、その男性には妙な点があった。影がないのである。怖くなった女性は老婦人の秘書にわけを聞いた。秘書は口外しないという条件で秘密を話した。昔、屋敷の前に浮浪者がやってきた。そのころの老婦人は冷たい態度をとる。頭を下げる浮浪者に屋敷の前の道の落ち葉をすべてきれいにしたら金をあげるわといい捨てた。浮浪者はほうきを握る。だが、その直後、浮浪者が倒れているのを発見した。死にかけた浮浪者は恨みのこもった目で、落ち葉をはきおわったらかならずあんたのもとへ行く。といい残して死んだ。それ以来、秋になるとほうきの音が聞こえる。それもだんだん近づいてくるのだ。老婦人が浮浪者に親切になったのはそういうわけがあった。  女性が音を聞いてから三日後、老婦人は亡くなった。あの亡霊が落ち葉をはきおえて老婦人のもとへたどり着いたのだ。  過去に死なせてしまった浮浪者に呪われた老婦人の話でした。毎年死が近づいてくるのが怖いですね。
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