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 ある男性、船でひどい経験をした話をする。  男性は船で大西洋を渡ろうとしていた。客室へ向かうと、相部屋だ。男性はひとりが好きだったので、もうひとりの客とは極力かかわらないことに決めた。船が出港した夜、相部屋の客が夜中に突然大きな音を立てて部屋から出ていった。なにごとかと思って男性が目を覚ます。海の匂いに気がつく。船室の窓が開いていた。男性は窓を閉めて客のすがたを探すが、見当たらなかった。しかたないので眠るが、翌朝になっても戻ってこない。それをたまたま出会った船医に話す。男性の話を聞いたとたん船医は顔色を変えて部屋を変えたほうがいい。わたしの部屋に来いといいだした。理由を聞く。あの部屋の乗客はみな窓から海へ飛びおりたという。しかし、男性は船医の誘いを断る。ひとりのほうが気楽だし、その怪異の正体を突きとめてやるとの意気込みがあった。男性が船内に戻ると、船長からも同じ話を聞かされた。相部屋の客は消えたままらしい。客の身元を調べたが、素性もよくわからないという。船長は船の評判が落ちるのを恐れていた。ほかの客に口外しないように。できれば部屋を移ってほしいと。だが、男性の決意は固い。それならばと船長は自分もいっしょにその部屋で一夜を過ごす。部屋の恐ろしさを知ればあなたも気が変わるだろうとなった。  船長と男性が部屋で寝ずの番をすることに。窓はきつく締め、客室の入り口は船長がふさいだ。何者も侵入できない。しかし、夜が更けてくると、窓の鍵が自然とゆるみだした。男性が閉めようとするが、強大な力に押されて窓が開く。海の匂いが入ってくる。それとともに空いていたベッドに何者かの気配がする。男性がベッドを探る。つかみどころのないひとの腕のようなものに触れた。そいつの力は強く、男性と船長のふたりがかりでも抑えきれない。格闘の末、床へ組み伏せられてしまう。そのままそいつはドアを打ち破って船内へ消えていった。男性は怪異の正体を突きとめるのをあきらめ、二度とその船に乗らないことを誓った。  船の幽霊の話でした。船は幽霊と相性がいいですね。閉じられた空間で逃げ場が限られているというのがいいのでしょうか。
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