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 ある女性がいた。その女性はわたしを嫌っている。たぶん、わたしが女性のことを認めていないからだろう。女性はおさないころから心臓病を患っていて、長く生きられないと周囲から気の毒がられている。そんな女性にも結婚を申しこむ男性があらわれた。資産家の男性で女性をだいじにした。女性のために仕事を辞めて女性のために尽くした。そして、大方の予想を裏切って男性のほうが先にこの世を去った。体の弱い女性はすぐに男性のあとを追うかと思われたが、なんと生きながらえて二度目の結婚を果たした。子どもにも恵まれ、女性は新しい夫と暮らした。新しい夫も女性に親切だった。女性がいつ死んでもおかしくないからと、できるだけ女性に寄りそった。そして、女性よりはやく死んだ。周りの人間は子どもがひとりになるのではないかと心配した。その子どもは大学を卒業し、女性のめんどうをみるという。しかし、子どもは恋に落ちた。結婚を申しこまれる。だが、子どもは女性のめんどうを見なくてはいけない。結婚をあきらめるとのうわさが流れてきた。わたしは女性のもとを訪れていった。うまくだましてきたなと。自分の弱さを逆手に取って周りを自分の思いどおりに操った。女性は否定する。だったら子どもの結婚を認めてやればいい。女性はいい返す。認めるわ。だけどわたしは死ぬでしょうね。認めるならそれでいいじゃないか。認めるわ。だけど、わたしはかならず死ぬわ。  数ヶ月後、子どもの結婚式が開かれた。その日に女性は死んだ。  生まれつき心臓病で体の弱い女性が、その立場を利用してという話でした。この話はいろいろな解釈があると思います。
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