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囚われの身 ①
「テオ様、昼食でございます」
昼食をカートに乗せ、使用人がテオの部屋に運んできた。
「ありがとう……」
ベッドで横になっていたテオが、気だるそうに体を起こし、裸体のままベッドから出てくる。
使用人は顔色ひとつ変えず、テオに最上級のシルクで作ったローブを羽織らせると、昼食が乗ったテーブルの席を引く。
「ありがとう、もうさがっていいよ」
テオがそういうと、使用人達は頭を下げて部屋から出て行った。
今日の昼食もオニオンスープに野菜と子羊の煮込み料理、パン、サラダ、赤ワインだ。
昼食からしっかりとした料理に赤ワイン。
なぜなら今晩も幼馴染でテオが密かに好意を寄せるシーザーと肌を重ねるため、体力をつけないといけないからだ。
涙の宝石に、蜜の真珠のために……。
一族の私利私欲のために。
こんな料理食べたくない。
テーブルに乗った料理に手をつけず、窓から中庭の様子を見た。
そこには木の手入れをするシーザーの姿が。
すこしでもシーザーに近づきたくて窓を開けようとしたが、外からしか開閉できないように外付けの鍵のため、部屋の中にいるテオには窓を開ける術はない。
窓のガラスに手を当て、目でシーザーを追う。
「シーザー、早く会いにきて……」
聞こえるはずもないのにポツリとそう言うと、庭仕事をしていたシーザーは手を止め、テオの方を見ると手を振り、テオも手を振り返した。
テオは公爵家の三男だ。
公爵家の三男といっても妾の子。
実はテオの母親には夫がいたにもかかわらず、侯爵が無理やりテオの母親を連れ去り妾にした。
母親は出産後すぐに死んでしまい、テオは母親の顔は知らない。
テオは侯爵に全く似ておらず、艶のある金色の髪に白い肌。エメラルドのような透き通った緑の瞳は母親そっくりだそうだ。
侯爵はテオが生まれたことにより、やっと手に入れた美しい妾が死んでしまったとテオを恨み、愛情を注ぐことなく無視し続け部屋に押し込めていた。
テオが今では希少になっていたオメガで、涙や蜜が宝石や真珠に変わる特殊な先祖返りだと気付くまでは……。
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