囚われの身 ②

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囚われの身 ②

 日が沈み、シーザーがテオの部屋を訪れる前、妊娠しては宝石の質が落ちるからと、リスクが高いが避妊効果が高い薬を必ず飲まされる。  今日も夕食と共に薬が運ばれてきて、きちんと服薬しているか使用人が確認してから、テオとシーザーが会うことを許されていた。 「シーザー、僕もうこんな生活嫌だ……。もう死んでしまいたい……」  行為が行われた後、珍しい宝石や真珠が転がるベッドでシーザーに背後から抱きしめられたまま、テオが言った。 「死んでしまいたいの?」  シーザーはテオの髪に優しくキスをする。 「うん」 「どうして?」 「それは……」 宝石や真珠のためだけにシーザー(愛する人)に抱かれるのは辛い。    そう言いたかったが、シーザーへの思いは秘めたもの。  なぜなら公爵に「シーザーと恋仲になれば、2人のことを引き離す」と脅されていたからだ。 「それは……秘密」 「そう……」  シーザーは深くは問い詰めない。  でも毎回、「俺のために、絶対に死なないで。絶対に」と呪文のようにテオの耳元で囁き続け、テオは頷くしかできなかった。  そんな日々が続いた、あるヒートの後。  宝石や真珠の中でいつものようにシーザーに後から抱きしめられている時、 「なぁテオ。俺たち一緒に逃げないか?どこか遠く、誰も俺たちのことを知る人がいない場所に……。2人だけで暮らさないか?」  いつものシーザーからは想像できないことを話し出した。 「え?一緒に?」  テオは愛する人に「一緒に逃げよう」と言われて嬉しかった。  でもいつもテオの部屋の前には、ガタイのいい兵士が立っていて、窓も外からしか開けられないようになっている上に、部屋は城の三階部分にある。  ここは豪華な調度品で飾られている、牢獄。 「部屋のドアから出て行くのも、窓から出て行くのも無理だよ……」  脱走は無理だとわかっていたが、いざ言葉に出してしまうと、現実を突きつけられたようで、胸が締め付けられる。 「ああ、でもテオと一緒に、誰の目も気にせず過ごせる日を願わずにはいられないんだ」 こんなことを言い出すには、何かあったはず。 「シーザー、何があったの?」 「実は、テオの結婚が決まった」 「え!?結婚!?」  シーザーの話では、テオが美しく希少なオメガだと言うことが皇帝の耳に入り、侯爵家を皇族に迎える代わりに、テオを側室に出せと命令がかかったそうだ。  はじめは金蔓のテオを皇帝に差し出すことを拒んでいたが、皇帝に反逆罪として罰せられそうになったため、渋々皇帝の命を受け入れたとのことだった。  しかも輿入れは明後日。  全てはテオの知らないところで進んでいたのだ。 「そんなの聞いてない!」 「ああ。俺もさっきテオの部屋に来る途中、たまたま使用人が話しているのを小耳に挟んだだけなんだ。多分侯爵は、テオに何も言わず皇帝に差し出すつもりなんだ。だからテオ、お願いだ。俺と逃げてくれないか?」 「……」 「俺はテオとずっと一緒にいたいんだ……。愛しているんだ。ずっとずっと前から、テオと出会った時からずっとテオだけを愛している」 「……」 「廊下の兵士には睡眠薬入りのワインを飲ませている。だからその間に逃げればいい。愛してるテオ。俺と逃げて、結婚してくれ」  こんなにん切羽詰まった真剣なシーザーを、テオは見たことがなかった。 「シーザー……」  心が震えた。  シーザーの提案がどれほど無謀で、どれほど難しいことで無計画なのもわかっている。  でもどうしてもシーザーと一緒に、誰も自分たちのことを知らない場所で、幸せな家庭を築きたかった。 「うん。一緒に逃げよう」  テオはシーザーに背を向け急いで服を着ると、小さな麻の袋にいまし方生み出された宝石を詰め込んだ。 「これをお金と交換したら、しばらくの逃亡資金は大丈夫だよね……!!」  テオが振り返ると、シーザーは兵士にはがいじめにされ喉元に剣を突きつけられていた。
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