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囚われの身 ③
「テオ。そんな珍しい宝石を金に換金したらすぐに見つかってしまうじゃないか。ま、それより先に見つかてしまっては、話にもならないがな」
兵士の後から、侯爵がニタリと笑いながら現れた。
「実はな、シーザーにテオの結婚話を聞こえるように使用人に立ち話させたのは、わざとなんだよ」
「え!?わざと!?」
「シーザーがこの話を聞けば、必ずお前と一緒に逃げようとする。そこでお前が逃亡して見つからないということにしてしまえば、お前を地下牢で隠すことができ、しかも皇帝にお前を差し出さなくていい」
「そんな……」
「こんな素晴らしい金蔓。誰が手放すか」
計画通りことが進み、満足気に侯爵が高笑いする。
「それでは、用無しのシーザー。貴様には死んでもらおう」
シーザーをはがいじめにしている兵士が剣に力を入れ、ルーカスの首に刃があたり、つーっと一筋の血が流れた時、
「ダメ!」
テオが叫び、兵士はピタッと動きを止めた。
止めたと言うより、動けなくなっている。
「絶対にそんなことはさせない!!」
テオはシーザーのそばに駆け寄ろうとするが、もう1人の兵士に抱き抱えられ、バタバタと手足をばたつかせ宙で暴れるが、兵士の腕からは逃れることができない。
「何をしている!早くシーザーを殺してしまえ!」
侯爵が怒鳴り散らすが、シーザーをはがいじめにしている兵士の体は動かない。
「役立たずめ!」
そう言いながら侯爵が持っていた短剣で、シーザーの腹部を刺した。
「う“ッ……」
シーザーは短くうめくと、傷口を抑えて倒れ込み、床にはシーザーの血溜まりができる。
「離せ!」
テオがまた叫ぶと、テオを抱き抱えていた兵士は何かに操られているようにテオを離す。
「シーザー!シーザー!」
シーザーの傷口を塞ごうと、テオは必死に両手で押さえ込むが、どくどくと血が流れ出て、床を染めていく。
「シーザー!シーザー!」
テオの目から涙が溢れ、血溜まりに落ちると赤い宝石となり転がっていく。
「テオ……もっと早くに……逃げてあげられなくて……ごめん……な……」
血で真っ赤になった手で、シーザーはテオの頬に触れた。
「……。許さない……」
シーザーの血で赤く染まった短剣を持った侯爵を、テオが睨みつける。
「絶対に許さない。お前たち全員、一族全員、お前たち一族に関係した全ての人は、苦しみながら死ねばいい……」
瞳は透き通る緑から紅に変わり、テオの声とは思えないほどの低い声が、口から発せられると、
「ぐっ!!」
「がはッ!」
「ごほっ!」
テオとシーザー以外、部屋にいた人々が急に口から血を吐き、苦しみながら息絶えた。
テオは自分を虐げた人達の死には目も触れず、
「シーザー、今、助けてあげる。だから死なないで……」
愛しいシーザーの傷口にテオが手をかざすと、手から金色の光が発せられ、みるみる傷口が塞がっていく。
「テオ。あの力使っちゃったんだね……」
すっかり傷口が治ったシーザーが体を起こしながら言った。
「絶対にに使わないって約束してたのに、使ってしまってごめんなさい。でもどうしても許せなくて……」
「ううん。テオは何も悪くない。悪いのはアイツらだ」
シーザーはテオを抱きしめた。
「シーザー、もう僕たちの邪魔をする人達はいないよ。今度こそ、一緒に逃げよう」
テオの瞳の色が元の緑に戻る。
「ああ。誰もないどこか遠くに行って、2人だけで暮らそう」
「2人だけ?」
「はじめは俺とテオ2人だけ。でもそのうち家族が増えて、賑やかな家庭を持ちたい」
「うん!賑やかな家族がいい!」
テオとシーザーは手を取り合って、血だらけの部屋を出ていく。
廊下にも門の外にも死体が転がる城を抜け、深い森へと入っていった。
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