人と言う字

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人と言う字

 準備が出来て、ダラダラと喋りながら部屋を出る。 手を繋いで、マンションの一階に入っているコンビニでお互いの吸っている銘柄の煙草を買った。  まるで、それだけで目的を達成してしまったかもように、面倒くさそうに左右の脚を交互に出して、駅への道をのんびりと歩く。  こんな風に書くと、億劫だったのかと思われてしまいそうだけれど、お互いどことなくお余所行きな雰囲気を纏っていた。  切符を買うのに、乗り換えなどもあるし、もう面倒だから適当なものを購入して、最後に降りる時に精算機に任せよう、と言って新宿行までのものを購入した。  日曜日だからか、もうすぐお昼になるこの時間帯は、電車内は空いていた。 長い椅子の端っこに腰掛けると、中村さんも横に座って、スマホを取り出すと何やら操作をし始める。  人の少ない車内だと言うのに、太ももをひろげて幅を取ったり、人に迷惑をかけたり、マナー違反になるような態度をとったりしない彼に、勝手に好感度がグングン上がった。  これは、ギャップ萌え、と言うやつであって、人を困らせたり、嫌な想いをさせたりしないように気を遣えるところが素敵!と言う気持ちは、少し経ってから私の胸に届いた。  どうやら、乗り換える駅や、時間や、ホームなんかを調べていたらしい中村さんがスマホをポケットにしまって、もう一度私と手を繋ぐ。 軽く彼の方に寄りかかって、上半身だけ体重をかけると、無言で同じようにして来た。  おお。これがかの有名な。 人と言う字は、一つ一つの線が二つ寄り添って、支え合って出来ていると言う、あれのようではないか。  - なんちゃって。だったらいいな、ってだけなんだけど。
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