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良かった、と心底嬉しそうに笑う。
「忘れられてたらどうしようかなって。よく分からない人が迎えに来ても、怖いでしょ?」
「……」
そんなことありません、と雛菊は弱々しく首を振る。
そして、来てくれてありがとうと頭を下げようとした。
旭はそれをさっと制し、ついでに鞄も取り上げた。
ずしりと重い、旅道具。
否、引っ越しの荷物だ。
「遠いとこまでよく来たね」
疲れたでしょ、と雛菊を覗き込む。
先程から目が合わない雛菊は、やはり逃げるように目をそらし、否定した。
小さな手で、スカートの裾をきゅっと握りしめている。
女の子らしいと言えばそうなのだが、どうも気を遣いすぎている感じがした。
「僧正様が待ってるよ。お腹もすいたでしょ?美味しいお菓子を食べようね」
さあ、と雛菊を促す。
ふらりと歩きだした雛菊は、まるで操り人形のように力なく、旭は彼女が負った傷の深さを感じたのだった。
「よく来たのぅ」
そう言って、僧正ーー雛菊の祖父は、雛菊を抱き締めた。
太い腕の中に閉じ込められ、雛菊の肩がひゃっと強張る。
僧正はそれに気づかず、丸い頭に頬擦りをした。
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