雛、山寺にやって来る

2/6
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
良かった、と心底嬉しそうに笑う。 「忘れられてたらどうしようかなって。よく分からない人が迎えに来ても、怖いでしょ?」 「……」 そんなことありません、と雛菊は弱々しく首を振る。 そして、来てくれてありがとうと頭を下げようとした。 旭はそれをさっと制し、ついでに鞄も取り上げた。 ずしりと重い、旅道具。 否、引っ越しの荷物だ。 「遠いとこまでよく来たね」 疲れたでしょ、と雛菊を覗き込む。 先程から目が合わない雛菊は、やはり逃げるように目をそらし、否定した。 小さな手で、スカートの裾をきゅっと握りしめている。 女の子らしいと言えばそうなのだが、どうも気を遣いすぎている感じがした。 「僧正様が待ってるよ。お腹もすいたでしょ?美味しいお菓子を食べようね」 さあ、と雛菊を促す。 ふらりと歩きだした雛菊は、まるで操り人形のように力なく、旭は彼女が負った傷の深さを感じたのだった。 「よく来たのぅ」 そう言って、僧正ーー雛菊の祖父は、雛菊を抱き締めた。 太い腕の中に閉じ込められ、雛菊の肩がひゃっと強張る。 僧正はそれに気づかず、丸い頭に頬擦りをした。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!