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「カーテン買ったし、アイス買って帰ろうか」
トートバックを肩から下げて、前橋いつきは公園を横切る。暑かった日が暮れて、少し気温が下がった。梢の上の空が、オレンジ色を帯びている。
休日にまとめ買いをした。部屋を模様替えするんだ。夏物の服も買った。
公園の一角から明るい音楽が流れてくる。近づくと、熊の着ぐるみが踊っていた。イベント的な設営はなかった。踊る熊の前に、三脚に乗ったカメラがある。
等身大の熊のダンスがコミカルで、いつきは足を止めた。音楽が終わった。もう帰らなきゃ。いつきは歩きだした。
すぐに、背後から呼び止められた。
「前橋、前橋じゃないのか?」
振り向くと、大きな熊がいた。
「う、うわあー」
思わず、いつきは叫んだ。何これ、どうすればいい? 死んだフリ? 本物じゃない、着ぐるみだ。ダンスしていた熊?
「俺、俺……って、これじゃわかんないか」
着ぐるみの中から声がした。熊は短い手を伸ばして、頭を外した。汗だらけの顔に見覚えがある。
「まだ分かんないかなあ。牧村だよ」
「ああ、そうだ、牧村先輩!」
大学の映画研究会にいた、牧村先輩だ。
「先輩、何やってるんですか?」
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