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休日の屋台村は、ちょうどよく空いていた。黒ずんだコンクリの床を、電球色の灯りが照らしている。前橋いつきと牧村は、木のテーブルで、ビールのジョッキを傾けていた。いつきは焼き鳥を口に入れる。タレの味が濃い。冷たいビールを流しこむ。ああ、おいしい。体に沁みこむ、って感じ。
「かあー。夏はビールに限るねー」
牧村が頭を振って唸った。長髪の毛先がはねている。白い肌に太い眉、彫りの深い、濃い顔立ち。タンクトップに短パン姿の牧村は、何だかインド人っぽかった。
「先輩、さっきの熊のダンスは、ユーチューブの撮影だったんですか?」
就職した大メーカーを辞めて、牧村は今ユーチューバーをしている。そう聞いて、いつきは驚いていた。
「熊じゃない。テディベア。『まきむらテディベア』というキャラクターで動画を上げている。顔出ししてないから、テディベアが俺だということは内緒な」
わかりました、と答えながら、いつきは、牧村がなぜユーチューバーになったのか、気になった。サークルの送別会で就職が決まってよかったと語っていたはずだ。
「今、仕事は?」
「基本ユーチューブだけど、時々バイトもしている。それがなきゃ、週三回更新できるんだけどなあ」
「ユーチューバーって、儲かりますか?」
「儲からない。最近やっと収益化したけど、まだバイト代より少ない。だけど、今に成功して、ドカンと儲けてやるぜ」
「着ぐるみで踊ったり、イベントやニュースを紹介する動画が、バズりますか? メーカー辞めない方がよかったんじゃ?」
「会社なんてクソよ」
ジョッキを呷る牧村の顔に、翳がよぎった。
「それより、前橋がアカツキ製薬に就職した方が、びっくりだよ。オタクのお前さんにお堅い会社、合わないだろ?」
牧村は相変らず、口に遠慮がなさそうだ。
「そこまで、オタクじゃないと……」
「デートでカラオケに行って、お前がアニソンをエンドレスで歌うから、男が萎えて別れた。という話があったっけ」
「先輩、心の傷をぐいぐいえぐりますね」
ガハハハッと笑いながら、牧村はシイタケの串をかじった。この人は、サークルでも爆弾発言を連発していて、人の心がないサイコパスと呼ばれていたんだった。
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