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いつきが新入生で映研に入部した時、牧村は四年生だった。大学時代、牧村とは飲み会で話すくらいの付き合いだった。
むしろ新人歓迎コンパで話しかけられた一年先輩の人に告白されて、デートしたんだけど……そのことは、いつきは黒歴史として封印していた。
「ところで、前橋、大丈夫か? お前の会社、かなり問題ありそうだな」
また無神経発言か。だが、牧村の顔から、おふざけの表情は消えていた。
「大丈夫です。会社は忙しいし、ボクもプロジェクトとかやってて」
「ブラックじゃないか? 深夜まで働かされたり、心を病んだりしている奴はいないか?」
心配している風の言葉を口にしながら、牧村は笑っている。いつきは腹が立ってきた。
「無責任に、ウチの会社のことを悪く言わないでください。悪口を言うのが大好きな人がいるんですから」
「ウチの会社、ねえ?」
牧村はニヤリと笑った。
「そういう社畜特有の単語が、前橋から出るとは意外だな」
と呟いて、続ける。
「俺の耳に入ってくるアカツキ製薬は、完全にブラックだ。パワハラはあるわ、深夜労働で、体や心を病んで辞める人も多数。まあ、マスコミはたくさん広告出してもらっているから、悪いニュースは流さないけど。役所が調査しているという噂も聞いた」
まさか。いつきはショックだった。
鶏皮とキュウリです。とTシャツの店員が皿を置く。牧村が彼女に声をかけた。
「未亜、君もアカツキ製薬にいたんだっけ?」
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