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「うん、二年半ほど前だけどね」  と答える店員を、いつきは見た。小柄で小太りだが、豊かな胸がTシャツを押し上げている。なんか色気のある人だな。 「未亜、その時の話を聞かせてくれよ。工場勤務だっけ?」 「えー、思い出したくないー。とにかく最悪。残業させられて大変だったし、正社員たちはクソだし、最後は突然、今月で辞めてくれ、だって」  未亜は唇を尖らせた。二人の隣の椅子に腰かけて、足をぶらぶらさせている。  何なんだ、この人。いつきはむかついた。 「『お前のミスだから終わるまでやれ』と言われてやったら、残業代ついてなかったとか」 「ちょっと待ってください」  我慢できず、いつきは口をはさんだ。 「ウチの会社がサービス残業させてるみたいじゃないですか。それはないですよ」  牧村だけに喋っていた未亜が、いつきに気づいたようだった。表情に、はあん? という内心の声が浮かんでいた。 「あんた、おきれいな本社ビルにいるんでしょ。工場のこと何も知らないくせに。正社員様には、あたしたち派遣社員のことなんて、興味もないでしょうけど」  つっかかってくるなあ。いつきは反論を続けるか迷った。マジ切れするのはよくない。でも、この女の話を牧村先輩に鵜呑みにされるのも嫌だ。 「昔、現場の一部で、あったかも知れませんけど、今は違います」 「昔? 一部? その言い方が本社のエリートだって言うのよ! そんな目に遭った当事者からすれば、それがアカツキ製薬なのよ」 「神川第一工場で働いていたんですか?」  いつきの記憶では、銀色に光るパイプやタンクでいっぱいの工場だった。 「そうよ。前田とか、板倉とか、知ってる?」 「あ、板倉さんなら知ってます。所属しているプロジェクトのリーダーなんで」  未亜は顔を背け、席を立った。 「ああ喋りすぎちゃった。仕事しなきゃ」  未亜は焼き場に戻っていく。焼き鳥を焼いている中年男が、こちらを睨んでいた。 「なんでボクが文句言われるんですか?」  いつきはショックだった。 「ボクは会社の代表じゃない。ただの下っ端社員なのに!」  あはは、と牧村は大笑いした。 「君らのやりとり面白かったな。カメラ回しときゃよかった」 「げ! そんなこと考えてたんですか」
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