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夜中になっても雨は止まなかった。昨日までの暑さは多少おさまったが、肌がべとつくような気持ち悪い蒸し暑さは変わらない。屋台村のコンクリートの床は、足跡で黒く濡れて、灯りで鈍く反射していた。
静かだ。未亜はテーブルを拭きながら呟く。月曜日、しかも雨の夜に、飲み屋に客は来ない。店長も焼き場の掃除を始めた。客席でダラダラしていても何も言わないだろう。もともと店長は最低限の指示以外、口を開かない。
未亜は店の客と喋るのが好きだが、昨日は驚いた。テディベアさん(未亜は本名を知らない)が連れてきた女の子が、まさか板倉と一緒に働いているとは。ここにいることを、板倉に知られるとヤバい。
去年の年末、元カレの板倉と二年ぶりに会って飲んで、アパートに行って、板倉の財布から金をとって逃げた。二万八千円だった。借りてく、と置き手紙してきたものの、板倉は怒っているだろう。怒られるのが怖くて、LINEも電話もブロックした。
あの時は仕事もなくて、あの金がないと、アパートから追い出されるところだった。
クリスマス前に、同棲していた男のアパートを追い出されて住む所がなくなり、あわてて部屋を借りたもの、お金がない。金を貸してくれる友達はいない。実家には頼りたくない。もう半年も電話していない。
困り果てた時に思い出したのが元カレの板倉で、同じ街にいるはずだし、別れた時は自分が一方的に出ていったが、もう許してくれないだろうか。板倉は未亜のわがままを、いつも最後は許してくれた。
男に捨てられた心細さもあって、無性に板倉に会いたくなり、なぜあんないい奴と別れたのかと後悔も出て、メッセージを入れまくった。最初は無視されていたが、大晦日の前の晩、酔っぱらった板倉に呼び出されて、飲んだ後、彼の部屋に行った。
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