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エルが少女の手を掴んで走り出す。少女も嬉しそうに、手を引かれるままエルの後ろを追いかけた。一番近くの屋台にたどり着くなり、エルが言うまま購入しては次の店へ。
ものの数分で三つほど購入したあたりで、エルはようやく立ち止まって商品に口をつけた。
「おっにく! やっさい! タレんっま〜い! 正直金欠気味だったから助かったよ〜。ありがとう!」
エルは手に持ったガレットに、大口をあけてかぶりつく。少女はそれを微笑ましく眺めながら、同じガレットを小鳥が啄むように一口齧っては飲み込んだ。
「いいえ、こちらこそ。わたしも、ここへ来られたら絶対食べたいと思っていたので、嬉しいです」
言ってから、少女はエルの手元に目を向ける。
エルの手には紙の切れ端が二枚ある。一枚は薔薇のように配置された苺に星型のクッキーが乗ったクレープの墨絵、もう一枚は星型のチョコクッキーが乗ったチョコバナナクリームのクレープの墨絵が描かれている。切れ端は、エルが肩から下げている本から破いたものだ。
「まさかそんな風に保存しておけるなんて知りませんでした」
「なかなか便利な魔導具でしょ〜! なんでもそのままの状態で収納できるし、本から切り離しても、一度だけなら元に戻せる優れ物なんだ! あ、切り離したやつを戻す時は破くだけで取り出せるよ!」
「素敵ですね、いいなあ……」
羨ましそうな声にエルも鼻が高い。だが、少女の視線を追ってみれば、その先にあるのはショルダーブックではなく墨絵のクレープだ。エルは首を傾げながら一枚を少女に差し出した。
「あっ、まだ食べたい?」
「いえ、……友人と一緒に食べたかったな、って」
「また合流した時に買えばいい……って思ったけど、いつどこで合流できるかわかんないもんね。じゃあはい! あげる!」
エルは笑いながら、持っていた二枚の紙をどちらも差し出した。少女は驚いて首と手をぶんぶんと横に振る。
「それはエルさんの分ですので!」
「いいからいいから! ほら、元々は君のお金だしさ!」
「でも、それだとお礼にならないですよ?」
「じゃあ、後で魔法道具店に付き合ってよ! まだまだたっくさん魔導具も魔法道具もほしいんだよね〜! できれば《睡魔ノ砂》みたいな素敵なのがほしいんだけど、あれはお店で買ったんじゃなくて競りで落としたんだ〜!」
半ば強引に紙を押し付けたエルが意気揚々と話し出す。《魔導具》には目がないのだ。その様子に少女は苦笑しつつも、楽しそうに目を細めた。
「魔導具って普通の魔法道具店では取り扱ってませんよね」
「そうなんだよ〜。普段は大魔法都市か王都にある店舗でしか購入出来なくてね〜。魔法道具ももちろん好きなんだけど。あっ、もしかして魔導具とか魔法道具に興味ある!?」
「えっと、……ほどほどに?」
この言い方は絶対にほどほどではない。
「じゃあ今から行こっか! ちょうどそこにお店あるし、ちょっとだけ。ね!」
少女を同族だろうと判断したエルは、少女を急かしてガレットを食べさせる。自らも手早く胃袋に納めると、強引に少女の手を引いて、二軒隣に建っていた魔法道具店へと足を踏み入れた。
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