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ひらひらと飛ばされた手配書は、先ほど風船を飛ばしてしまった幼女の目に止まった。エルから目を離せなかった幼女は、落とした瞬間を見てしまったのである。
拾ってあげなければならないと思ったのだろう、エルが去ったのをきっかけに街の人々が動き出す中、幼女は落ちてくるのをじっと見つめている。
「あ、」
それが光に瞬いて忽然と消えたものだから、幼女は呆然と虚空を見上げて、すっかり動けなくなる。幸か不幸か手配書の行方を見ていたのは幼女だけで、他の人々は気づかなかったようだ。エルの活躍を見ていたアイス屋の店主は少年と顔を見合わせると、興奮冷めやらない様子で口を開きあった。
「……いやあ、すごいもんを見たねえ」
「うん。びっくりした」
幼女はまだ衝撃が抜けきらないらしく、ぼうっと手元のアイスを見下ろした。少年は幼女から、そっと風船を受け取る。
「溶けるから早く食べろよ?」
「……うん、おにいちゃん、ありがと」
「いや、……わるかったな」
「ううん」
幼女は溶け始めたアイスをひとなめして、少年に問いかける。
「ねえ、おにいちゃん。あのおねえちゃんって、まほうつかいなのかな?」
「女の魔法使いはいないんじゃないか? 魔導士だろ、たぶん」
幼女と少年の会話を聞きながら、店主は誰もいなくなった屋根の上を見上げて、感嘆のため息を吐いた。
「魔導士って、すんごいんだなぁ……」
エルは魔導士ではないのだが、一般人に区別がつかないだろう。仕方のないことだ。
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