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足元に都合よく落ちていた木の棒を拾い上げたフィナは、三人の肩をそれぞれつつく。
「……ううんん…………」
「…… い……マーレパイうんめぇ……げふっ」
「うへ、うへへへ……」
どう見ても自分より十歳は年上の、大の大人が三人、揃いも揃って涎や鼻血を垂らして、気持ちよさそうに裏路地で寝ていたわけで、ラグはかなり引いたようだった。フィナも呆れたように肩を竦める。
「生きては、おるみたいやな」
「いくら祭りだからって、ハメ外しすぎだろ。……これ、放置しちゃだめだよなぁ」
「あかんやろなー。バレたらまた兄ちゃんにイジられるで〜」
はああああ。
肺の中の空気をすべて吐き出すようにラグはため息を吐いて、腰に巻いていた布を広げた。魔法道具、《魔絨毯》だ。ラグとフィナの小柄な二人が、彼らを引きずって連れて行くのは無理だろう。懸命な判断だ。
ラグが寝転がっていた男のうちの一人を引き上げたところで、突然叫んだ。
「こいつ魔導士じゃねーかっ!!」
男の胸元から《魔導証》が覗いていた。同業者に容赦はしないらしく、ラグは男を背負い投げた。どさ、という音を立てて石畳に打ち付けられた男だが、目を覚ます気配はない。石やらゴミやらが散らばっているというのに、気持ちよさそうに地面に頬を擦り付ける。
「タンドーリチキンうんめぇ……うんめぇなぁ……」
「なんで起きねーんだよ!?」
ラグは恐れるように一歩下がったが、フィナはやや厳しい面持ちで男の近くにしゃがみ込んだ。
「ちょいちょい。この破片、通信用の《魔晶石》ちゃうか? ほれ」
フィナがラグに差し出したのは、薔薇色の塊だ。形状は水晶の原石に良く似ているが、魔導士が見れば一目で魔法道具の核であると分かるだろう。受け取ったラグが光に透かせば、小さな魔法陣が見えた。
「それ、魔導士には不要よな? それに、なんやこやつらから臭いよるねん。……ふあ、あ、あかん、……こりゃ、睡魔、や……」
ぼふん!
突然もくもくと煙が立ち上り、消える。フィナのいた場所には、尻尾の数がやけに多い狐が一匹座っていた。ラグはその狐を抱きかかえて顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
「ちいと力が抜けただけや。やけど、飯はもうちょい後になりそうやなぁ」
「だな……」
ふわ、とあくびをひとつした狐姿のフィナは、ラグの腕から軽々と抜け出す。肩を経由してラグのフードの中へと収まった。
「ひとまず、こいつらを支部に連れていくか」
ラグは《魔晶石》をポケットに突っ込む。先ほどの《魔絨毯》に、かなり乱暴に男三人を転がして乗せると、自らもその上に座った。
「行くか」
「あいよ〜」
ふわりと浮き上がった《魔絨毯》は、上へ。障害物となりそうな屋根を避けるように高く上昇してから、その場を後にした。
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