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目を開けると、エルは薔薇色の空間にいた。周りには数匹の金色の蝶が舞っている。
──ここはどこだろう?
エルの知っている場所でない。だが、不思議なことに不安にもならなかった。どこか安心感を覚える空間に、エルはほっと息をつく。とはいえ、このままここにいるわけにもいかない。なにせここには魔導具もおやつもないのだ。
──どうしよう
ぼんやりとそんなことを思っていると、一匹の蝶がエルに近寄ってきた。エルの鼻のてっぺんを一瞬かすめて、エルの周りをくるくると飛び回る。
ひらひらと羽ばたく蝶の翅をよく見れば、不思議な紋様が描かれていた。
『きれい……』
エルは、思わず手を伸ばした。蝶は差し出された指先に留まる。頬を緩めたのも束の間、蝶は一際強く輝き始めた。
『わっ、まぶしっ……!』
蝶は翅の先から解けて、光になっていく。あまりの眩しさにエルは目を閉じた、……はずだった。光は目蓋などお構いなしに視界を照らした。
一面真っ白になった世界を、エルは呆然と見た。
──なにも、ない
前後ろの感覚も、立っているという確かな実感も、なにもかもが失われていた。元々立っていたのかという記憶すら曖昧だ。
混乱する中、どこからか笛の音が聞こえてくる。楽しげな祭りの音楽だ。それが、段々と大きくなる。
……音が大きくなっているのではなく近づいてきているのだと、エルは直感した。
『そうだ、私、』
聞き覚えのある音楽に、エルは閉じていた目を見開く。
だって、この音楽は──
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