計画の始まり

1/2

60人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ

計画の始まり

 沢木博美は駐車場からロードバイクに乗って走り去る曽倉哲人を車内で見送り、事務秘書官・宇田俊朗に「これから官邸に戻ります」と電話連絡し、車を発進させて駐車場から通りへ出てブルーのロードバイクを追い抜き、手を振る哲人をバックミラーに映して、ニ年前に安楽死の計画案を聞かされた事を想起した。 「久しぶり」 「あら、曽倉くん。日本に帰ってたの?」 「二年程前にこっちで起業し、(ライフ)に関わるプロジェクトを計画している。博美にも協力して欲しいので、少し話せないか?」  二人は大学で出逢い、お互い運命を感じて嵐のような恋をしたが、好き度と安心感が反比例する恋愛グラフに未来は無く、博美の方から別れを切り出して一年間で終止符を打ち、貴重な異性の友人関係を保っている。 「三年前からツィートもないし、どうしたのかと心配してたのよ?」 「実は母が膵臓癌で余命宣告され、三年前に亡くなったんだ。母は僕に対して冷たい人だったけど、見舞いに行く度にベッドの上で僕の手を握り、早く死にたいと涙を流して懇願した」  六本木「BAR Mijas」で二人は日本酒を酌み交わし、博美は哲人から深層仮想株式会社の名刺を渡され、母が亡くなった事を機に日本に帰国し、AI半導体の開発をしていると説明された。 「スリープダウンというVRアプリが完成すれば、日本の高齢化社会を変えられる。博美が秘書を務める、河本聡太郎を総理大臣へと押し上げるアイテムにもなると思うぜ」
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加