ライフ・ナビゲーター

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 米国での研究蓄積と優秀な技術者が集まった事で、ハードウェアとシステム構築は完成間近であったが、スリープダウンのコンセプト『希望と幸せ』を目指し、曽倉哲人は死の世界を究明する事をテーマにしている。 『博美さま。今後ともよろしくお願いします。ご主人様は人間としては変わった方でありますが、このプロジェクトを成功させるべく、私と共に最大限の努力をしておられます』  晴明(セイメイ)は博美にそう告げて消え去り、肩を竦めた哲人が苦笑し、VRグラスを外した博美とリアル体験を終えた。二人は休憩室でコーヒーを飲み、別れ間際に博美が哲人に苦言を呈す。 「曽倉くん。貴方が死に対して、異常な興味を示すのは分かるけど、御見送り庁の仕事とは切り離した方がいいと思う。私心を持ち込み過ぎると、政府が望む結果を得られないわよ。スリープダウンは生きている人を優先し、経済効果を忘れずに作って欲しい」  博美は哲人に政府という概念は無いと知っていたが、この時は不安な感情が湧き上がり、権力側の立ち位置で酷い言い方をしてしまった。 『晴明(セイメイ)は人間を正しい道へ導いてくれるのだろうか?可能であれば、哲人もナビゲートして欲しい……』  博美は二年前からの印象的な出来事を回想し、レクサスIS300hを運転して千代田区永田町の首相官邸に戻り、五階の総理執務室に呼ばれると、総理大臣・河本聡太郎と官房長官・堂島和也が内閣閣僚人事の名簿を作成するのを端の席で見守り、御見送り庁の欄に曽倉哲人の名前が書き込まれるのを複雑な表情で眺めた。 『これで良かったのだろうか?名付けるなら、AIプロデュース内閣。しかも、曽倉くんは死体フェチかもよ……』
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