2026年7月

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2026年7月

 二年前、神奈川県立白山高等学校、校舎一階の資料室を間借りする『オタク倶楽部』部室での出来事である。日曜日の午後、三年生の三笘(みとま)龍音(りゅうおん)がヘッドホンをして机に向かい、デスクトップPCのキーボードを超速で叩き、プログラムのソースコードを画面に打ち出していると、ドアをノックして入って来る者がいた。 「なんすかー?今、忙しいんですが」  龍音(りゅうおん)は無視して作業を続け、パーカーのフードを被った長身の男は薄暗い室内を見渡し、パソコン機器が乱雑に並ぶ一角に近付いて棚のVRゴーグルを手にして声をかけた。   「三笘くんって、君かな?」 「ちょっと、勝手に触らないでよ」  ヘッドホンを外した龍音(りゅうおん)が男に注意し、見覚えのある雰囲気に首を傾げて、空いた椅子に座って質問を繰り返す男を注視する。 「スリープダウンという睡眠アプリの作成者を探しているんだが、三笘龍音って高校生は君ですか?」  フードを外して正面を向く男の特徴的な眼鏡と長髪無精髭の顔が露わになり、龍音(りゅうおん)は左手で空いた口を押さえ、右手を突き出して指差し「世紀末の……カ、カリスマ」と呻く。
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