理想的な条件

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「龍音。ソクラテツはスリープダウンを気に入り、学校までスカウトしに来たが、別に急がなくていいって言ったんだよな?」 「ああ、親に相談しろって。それに自覚しているが、スリープダウンの完成度は低いと言われた。脳波をキャッチするのは難しいんだ」  美花は車窓を眺めながら暫し考え込み、龍音を上目遣いで見て核心をつく。白山高校で髪を染めた生徒は多いが、入学式からパープルヘアの美花は先輩に呼び出され、殴られた事もあったが自分のスタイルは変えなかった。 「私らの世代ってさ、コロナでマスクして、紛争やら分断やら見せられて、酸素ボンベくれって感じじゃん」 「EV車は増えても、CO2の排出量は変わらずか?息苦しいよな」 「ソクラテツが本当に世紀末のカリスマなら、一緒に世界をぶっ壊して、作り直すってのも面白いかもね」  電車が十日市場駅のホームに着き、龍音と並んで階段を上がる時も美花は「マネー」と呟き、「スリープダウンが欲しいなら、最高値で売れ」と龍音にアドバイスした。 「スリープダウンは不眠症で悩む人の為に考えたアプリだ。今は夏休みに田舎の爺ちゃんと婆ちゃんにプレゼントする。それだけに集中して頑張ってみるよ」  龍音は美花にそう言って、十日市場駅前の通りで別れ、自転車に乗って全力で走り出した。ある意味、自分に言い聞かせた想いであったが、カリスマ・ソクラテツへの挑戦を決意した瞬間である。
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