御見送り庁

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「そう急かすな。御見送り庁は命を預かる重要な機関であり、時間をかけて慎重に進めている。必ず適任者を任命し、期待以上の成果を上げてみせますよ」 「しかし、実際は奇抜な政策で注目を浴びて政権を握った短命内閣に過ぎず。御見送り庁が安楽死を推し進めるのであれば、高齢議員にお先にどうぞと言うべきではないですか?」  政治部の番記者に紛れ込んだ週刊文月(ふづき)の記者平本蓮一が声を上げ、静止する警備員を振り切って前に出て総理大臣に食い下がる。平本蓮一は芸能スキャンダルを扱う記者として有名だが、今回は政治ネタで世間に一泡吹かせてやるつもりだった。 「総理。これは生け贄であり、老人を人柱にする悪法だ」  声を荒げて迫る平本蓮一を河本聡太郎は「まあまあ」と(なだ)め、名札の雑誌名を見て笑みを浮かべて語りかけた。 「じゃー、君は百歳まで生きたいと願っているのか?週刊誌の記者なら不摂生が祟り、長生きしても大病を患うのもやむを得まい。僕は死が何かの役に立つなら、挑戦ではないかと考えているんだ。ライフへの挑戦。それも笑顔でね」
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