大学進学

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大学進学

 青葉台の市役所に勤務する三笘彩子は結婚して龍音を授かると、十日市場に一戸建てのマイホームを購入し、幸せな家族を夢見て子育てと仕事を両立させたが、二人目の流産、夫が務める広告会社の倒産、更に夫の浮気が発覚して幸せは崩れ去った。  父洸太が家を出て別居し、不登校になった龍音を心配した母彩子は山梨の実家へ預け、帰り際に玄関前で龍音の手を握り「君の心は絶対に壊さないから、心配しないで待ってなさい」と、無言で頷く龍音と指切りをした。  その時の涙目で微笑む母の顔が瞳に焼き付き、ダイニングテーブルに夕食の料理が並べられて、母と父が仲良くグラスにビールを注ぐのを見て想い浮かべた。 「幸せなひと時におじゃましますが、ちょっと相談していいでしょうか?」  龍音が父と母の晩酌を遮ってテーブルの上に名刺を置き、父が先に目を通して母に渡す。 「深層仮想株式会社?」 「曽倉哲人って、龍音を尋ねて来た人じゃない?ちょっと怪しい人物だったけど、イケメンだったから、学校へ行ったと教えたのよ」 「それ、軽率じゃないか?危険人物だったら、どうするんだ」 「だって、学校まで行くとは思わないでしょ」 「曽倉哲人は東大卒で、アメリカの大学で准教授をしてた学者です」 「そりゃ凄いな」 「でも、なんでそんな人が龍音に会いに来たのよ?貴方、こんな時にビール飲むのはやめなさい」  リサイクルショップで働く父は収入と過去の罪から母に頭が上がらず、家族の主導権は完全に母に明け渡している。
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