霊魂の再生

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霊魂の再生

 博美は異様な存在感でモニターに映る曽倉哲人を観て、鼈甲の丸レンズとメタルフレームの四角レンズを透して人間の心を覗き込む、半神半人の神と人間の子を想像した。 『半神は不完全だから、不死の神とは異なり寿命がある。人と同じく、殺される存在なんだ……』  数日前、体験ツアーの最終打ち合わせをしていた時、哲人は何の脈略もなくコーヒーの芳しい香りに合わせて呟き、眼鏡を外して曇ったレンズをクロスで拭き取った。 「今回の体験ツアーでは観光と食事、スリープダウンの睡眠機能をAI晴明とスタッフが案内し、二泊三日の山梨旅行を満喫していただく。つまりスリープダウンの永遠の眠りは省き、健康な目覚めを得て、旅行を終える事になります……」  曽倉大臣のスピーチは続き、龍音も博美と同じような霊的感覚になり、雄鹿の角を生やした半神の幻影を頭の中に浮かべて、曽倉の締めくくりの言葉を聴く。 「僕からのメッセージはこれが最後になるので、人間の未来について一つ約束します。スリープダウンは脳と体を永眠させますが、AI晴明は使用者の死後もサポートします。膨大な意識情報をキューブの中に移植し、霊魂を再生するのです。近親者が望めば、その霊魂と語り合う事もできるでしょう」  そう言い終えて緊張感を解き、微笑みの残像を僅かに残してカメラから消え、元の席に座って溜息を吐き出す。
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