オープン列車

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『ようこそスリープダウンの世界へ。これより、列車の屋根と壁が取り外され、オープン列車となりますので、上空と四方の風景をお楽しみください』  車両の壁と天井が開いて折り畳まれ、視界が全開になり、羽ばたく音に空を見上げると、 野鳥の群れが頭上を飛び去ってゆく。  線路の上を高齢者だけが乗る車両が走り、青い空と街並みが見渡せ、爽やかな風が頬に触れて草花の香りが鼻腔をくすぐった。    幸子は渡されたメガネで立体映像を観ていると理解していたが、想像以上にリアルな感覚に陥り、一瞬でスリープダウンの世界に魅了された。 「こ、これって……夢なの?」と驚愕の表情で呟き、AI晴明は唇の動きと声の響きで心情を理解する。 『お客さまに合わせてスピード調整していますが、不安を感じたら気兼ねなくお声かけください。座席背面のモニターに集中したい場合は、天井と壁を元に戻します』  目前の小型モニターはタッチパネルで山梨観光の案内が観れるが、速度も緩やかになって心も落ち着き、「このままでいいわよ。すごく爽快だもの」と幸子は笑顔で答えた。
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