総理大臣アドバイザー

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 高い天井とブルーを基調にしたイタリアンレストランの店内を沢木博美が店員に案内され、比較的空いているテラス席に座ると、スマホをテーブルに置いて首相官邸での河本総理の記者会見の映像を観て、クスッと笑みを漏らす。 『安楽死という言葉の印象が悪い。御見送り庁が最初にすべき仕事はポジティブな印象を作り出し、生け贄だと批判されない提案をする事だろう』(字幕スーパー)  河本聡太郎が記者に手を振って階段を上がり、鞄を持つ秘書官六名が早足で続くシーンでニュース速報は終了し、ふと背後に視線を感じた博美は唇を噛んでスマホを裏返しに伏せた。 「ライフ、挑戦、笑顔のキーワードを安楽死イメージ排除に使っている。河本総理は博美のアドバイスを受け入れて、忠実に演じてんな〜」  振り返るまでもなく、軽い口調の声が博美の頭の上から浴びせられ、長身を折り曲げて前の席に着く曽倉哲人を睨んで忠告した。 「ちょっと、山猫が獲物を狙うみたいに気配消すのやめなさいよ。先に来てたのなら、声をかけるってのが礼儀ってもんでしょ?」  しかし曽倉哲人は鼈甲フレームの丸レンズとメタルフレームの四角レンズを合体させた眼鏡で、沢木博美を正面から見つめて「政策秘書官に出世して、総理大臣のアドバイザーになったんだねー」と微笑み、博美にナプキンを投げられた。
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