眼鏡の霊視

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眼鏡の霊視

 週刊文月(ふづき)の記者・桜井文子と梅野孝保が軽量VRグラスを装着した高齢者席を見て、ジェットコースターのスタートをイメージしたのは、その一画がスリルと興奮の仮想空間へ入り込んだからだ。 「松永幸子さん。トイレ休憩しませんか?ゆっくり立ち上がって、足元にも注意してください」  龍音と美花がタブレットを見ながら、尿意反応の出た三名の高齢者を立たせて通路へ出し、中島正美と鈴木昭恵が手を貸してトイレに連れて行く。 「キョトンとしてるね?」 「ええ、年寄りとはいえ、トイレも忘れるほど感情移入した……」  軽量VRグラスのレンズは透明になったが、通路を歩く高齢者の目の焦点は合わず、スリープダウンの仮想世界から現実に戻るには時間を要すると感じた。 「梅ちゃん。こっち」と文子が梅野に指示して、ビデオ撮影の邪魔にならない車両前方のトイレへ向かう幸子を追い、虚ろな表情とふらつく足取りをカメラに収めた。
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