幼い頃の体験

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 今思い返すと祖母の暗示にかかり、不思議な現象を頭の中に描き、父の死の呪縛から逃れたのではないかと捉えているが、哲人はこの事件をキッカケに霊魂に興味を持ち、科学的見地から霊エネルギーの研究を始めた。 『霊魂は存在するが、ホモサピエンスが創作した神や霊的な物語は幻想であり、物理的なエネルギー現象ではないのか?』  窓ガラスの向こうに光の扉が現れ、ドアの隙間から冷気が漏れ出すと、空から降り注ぐ黒い粒子が人影になり、和室の真ん中で祖母と一緒に縁側を眺める哲人へ手を振り、開け放たれた暗黒の世界へ消えてゆく。 「お父さん……」と幼い哲人は肩を震わせ、祖母の手の温もりを背中に感じながら、鼈甲丸眼鏡のレンズは幽霊が見えると信じた。 「ごく普通の眼鏡じゃないか?度も低そうね」 「祖母は白内障の手術をして、視力が回復したんだ。僕にとって、その眼鏡は御守りみたいなものさ」  哲人は博美から眼鏡を受け取って掛け直し、魔術とか錬金術ではなく、未知の霊エネルギーが証明される日が来ると微笑んだ。 「スリープダウンがスタートすれば、晴明が陰と陽を結び、僕らに新しい世界を見せてくれる筈です」
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