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死霊の血畑
ワゴン車の後部席に龍音と美花が座り、タブレットの画面で高齢者のプロフィール欄を見て、[農業経験者][趣味・家庭菜園]と書いてある金井重治、田中安江、河野恵美子の三名が土の香りに強く反応し、龍音はインタビュー映像と分析結果に満足したが、美花は首を傾げて前席へ疑問を投げかけた。
「やはり、畑やってた人の数値が高い」
「でもさ、土の香りってそんな重要なん?確かに晴明の分析力は凄いけど、そんな意味あるかな?」
助手席に深々と座る曽倉哲人は車窓こ景色を眺めて長々と語り、ハンドルを握る沢木博美が横目で睨んで注意を促す。
「ロシアではダーチャという菜園付きのセカンドハウスを持ち、ジャガイモなどの食料を自給自足するシステムがある。しかし2022年2月にロシア がウクライナへ侵攻すると、死者と関わる家族はジャガイモよりもビーツを作り始めた」
「曽倉大臣。今、その話をするのでしたら、私の方からも言わせていただきます。空き地や空き家を畑にしろとか、スリープダウンの希望者に年金の十年分を前倒しで渡せとか、無理難題を提案するのはやめてください」
「しかし沢木秘書。スリープダウンの希望者に無償で菜園を与える案には賛成した筈だ。僕は君を信頼し、政治家への交渉を任せているのですよ」
「いえですから、スリープダウンの実用化が進み、御見送り庁への期待感が高まらないと交渉はできません」
「おお〜、国会答弁みたいやん」と美花が身を乗り出して揶揄い、龍音が美花の腕を引っ張って苦笑する。
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