死霊の血畑

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 加速して前の車を追い抜いた博美は「話を戻しましょう」と提案し、龍音をバックミラーに映し出して微笑みかけ、高齢者の観光案内をスタッフに任せて龍音の祖父母に逢いに行く事を想起させ、龍音が目を閉じて呟く。 「土の香り、ビーツ、畑の血液……」  哲人は「兵士、死者……」と続け、博美は「霊魂」と返す。 「連想ゲーム?」 「いえ、先程の質問の答えです」 「だから、ロシア のダーチャとかウクライナ侵攻とか、回りくどい説明は省いてはっきり言えばいいのよ」 「もしかして、土の香りと霊魂が関連してるのか?」  唖然として美花が聞き返し、哲人が笑みを浮かべて「スリープダウンのダークサイド」と切り出し、龍音も暗いトーンで喋り出す。 「社長はアメリカの大学で研究している時、末期の病人を土のベッドに寝かせ、死ぬ寸前に土中から霊エネルギーが発生するのを発見した」 「スリープダウンの最終目標は霊エネルギーをキューブに蓄積し、死者の魂を復活させる事だ。死者の記憶をアルバムとして残す、というのは建前であり……」  美花は大臣から世紀末のカリスマの表情に変貌した哲人の話を聴きながら、両手で頭を抱えて「死霊の血畑……」と呻き、ビーツ畑に横たわる死者が復活し、血塗れになって起き上がる3D映像をイメージした。
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