過去の反省点

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過去の反省点

 龍音はワゴン車の後部席で揺られながら、高校三年生の夏休みに山梨県に住む祖父母の家に行き、スリープダウンをプレゼントした時の事を思い起こし、睡眠アプリから安楽死アプリへ変更した経緯を話す。 「実は去年の夏、不眠症に悩む祖父母にスリープダウンを試してもらったけど、睡眠アプリとして致命的な欠陥がある事に気付いたんだ」 「えっ、爺ちゃんも婆ちゃんも喜んでくれたって言ってただろ?まさかそれでスリープダウンを売り渡したのか?」 「マザコンって言われた方が、俺らしくてカッコいいだろ?」  当時、オタク倶楽部の安野美花と坂崎邦彦は、龍音から『母親に大学進学を優先しなさいと説得された』と聞かされ、『マザコンかよ?』と爆笑した。 「覚えていますよ。君のお母様の交渉力には驚かされました。買い取ったと言うのは語弊がありますが、金銭的にも最大限の契約をした筈です」(龍音の母彩子は大学の学費援助と準社員として雇う事を条件に、スリープダウンの使用を許可すると曽倉哲人に提案した。)  哲人が美花に弁明し、博美は笑みを浮かべて龍音に質問した。自分たちが高齢者の観光バスに乗らず、ワゴン車で龍音の祖父母の家へ向かっているのは、病気で療養している龍音の祖父がスリープダウンを希望したからである。 「それで欠陥って何だったの?睡眠アプリとしての、祖父母の感想はどうだったのかしら?」 「ハードの問題です。単純にVRゴーグルは重過ぎた。軽量化するには資金が必要だし、霊エネルギーにも興味があったので決めました」
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